2017年モンゴル大統領選挙の活動期間開始に合わせて、3候補がそれぞれ選挙公約を出しています。今回からそれらの公約について順にみていきましょう(と言いつつ、いまいち翻訳に自信がないので、間違い等あれば優しく教えてください)。まずは人民党エンフボルド候補の公約からです。
エンフボルド候補の公約は、モンゴル最古で現在も最大級の通信社「モンツァメ」に掲載されています(人民党のウェブサイトにもありそうなものですが、どうにも探しにくい……)。
なお、エンフボルド候補ってどんな人?という方は、事前にこちらの人物紹介をお読みください。
さて、エンフボルド候補は「団結したモンゴル、恵みある国家」をスローガンに選挙活動を行っています。そして公約では「モンゴル人は互いにではなく、混乱や困難と逃走し勝つべきである」という前文から始まり、テーマとして、「モンゴルのゲル(遊牧民の移動式住居)、モンゴルの国家」を掲げています。そのテーマの通り、5部からなる公約は「トーノ」(天窓)「ハナ」(壁)「オニ」(天窓の支柱)「バガナ」(中央の柱)「ウード」(扉)おり、その内容もゲルの構造をイメージしたものとなっています。
まず第1の「トーノ」は「民族の調和、モンゴルの誇り」というサブタイトルがついており、「一貫した目的意識のある大統領」「価値観のあるモンゴル」「調和の基礎」「政治的に有益で賢明な大統領」「門閥ではなく全体の権益」「責任ある『ガラス張りの』政党」「献身的で従順なモンゴルの子ども」「自由な出版に有益な大統領」というトピックが示されています。説明文を見ても、具体的な政策目標というよりは大統領としての価値観や規範を示したものと言えそうです。
第2の「ハナ」は「責任ある公正で安定的なガバナンス」がサブタイトルとなっています。ここでは立法・行政・司法それぞれの公職に就く者の方針が示されており、「憲法について人民に尋ねる」*1「プロによる公職」「腐敗に関われば二度と政府には戻れない」「公職の公正な原理と平等な代表」「司法の責任を強化する」「裁判所が裁く。政治や政治家は参加しない」「公正な裁判官、公正な判決」「捜査し、連れ帰る」*2「本人に与えた褒賞」という見出しが出ています。
第3の「オニ」ではサブタイトルとして「健康で教育を受け、平等で暮らし向きの良いモンゴル人」が掲げられています。「国家の関心対象にモンゴル人を」「誰もが健康状態の良いモンゴル」「予防する」「全ての人々のスポーツ」「競争力あるモンゴル人」「近代的なモンゴルの子ども」「モンゴルの遺産を保護下に置く」「若者を支援する」「ビジネス教育は幼い時期から」「牧民を応援する」「十分な社会保障」「教員・医師の評価を向上させる」「女性を決定の場に参加させる」「母と子の政策」「世界中のモンゴル人」「科学には支援、技術には予算措置」「祖国による召喚」*3「ウランバートルは国家の名刺」「体系的に拡大した都市」「鉄道の新路線」という見出しがついており、大部分が国民生活に関するもので、残りは科学技術やウランバートルの都市計画に鉄道政策がついた感じです。
第4の「バガナ」のサブタイトルは「富を生み出す中間層」という意味になるでしょうか。少なくともこの部分が経済に関する目標を集めているのは確かです。具体的には、「競争力ある中間層」「混乱を一掃する」「落ち込みから成長へ」「信用を取り戻し、投資を復活させる」「工業団地建設を任務化する」*4「国の生産性、国民経済」「多様化した経済」「新たな産業政策」「先端的な技術を最優先する方針」「エネルギーの輸出」「紛糾から決断へ」「蓄積の宝庫は次代への備蓄」「経済回廊」「新しい田舎」「雇用を確実に増加させる」「ビジネスをスタートアップ段階で支持する」「資本市場の刷新」「オフショア地帯ではなくモンゴルで」「国有財産で負債を生まない」「モンゴルのコンテンツ、モンゴルの輸出」という見出しが並べられています。
第5の「ウード」は扉とあるだけに対外政策・安全保障に関するものです。見出しには「政治と分離した多面的な対外関係」「善隣関係」「第三の隣国政策」「多国間の活発な協力」「ビザなし渡航の可能性」「世界がわれわれの家」「ハイブリッド車」*5「反汚染の最前線」「水は生命の宝」「罪あるものがすべてを補償し復元する」「食糧の70%を祖国で」「保証ある医薬品」「国防政策」「モンゴルの軍は平和の軍」「武装・技術の刷新」「国境警備の能力」「国家による市民保護」「不可避なリスク、予防策」「電子安全保障」「麻薬への断固たる闘争」「世界に知られたモンゴル」がリストされており、個別の国・地域に関する政策というよりは、課題ごとに方針が示されています。
このあと、締めくくりとして、大統領選出の暁には「国家政策を継承する能力を保ち、社会集団ごとの参加や意見を尊重し、国会・内閣と手を取り合い、力を高めてこの公約を実現する」ことが掲げられています。
以上がエンフボルド候補の公約です。全体として具体的な数値目標に乏しい気がしますが、議院内閣制の下にあるモンゴルの大統領の職務権限からすれば仕方ない面もあります。
個人的な注目は、第4の経済政策で外国からの投資の回復や、経済回廊構想を掲げている点です。前者に関しては、大臣在任中にオヨー・トルゴイ銅鉱に関して外国企業と係争を経験したバトトルガ候補と、とかく資源ナショナリストやポピュリストと呼ばれがちなガンバータル候補がどのような公約を掲げるかが気になります。後者はロシアの大ユーラシア構想や中国の一帯一路構想の中でモンゴルを積極的に位置づけ、アピールするものであり、エルベグドルジ大統領がたびたび述べてきたものでもあります。それらの点からすると、現在の政策を党の違いに関わらず継承する姿勢を表すようにも見えますが、日本を含む「第三の隣国」との関係よりも両隣国との関係を重視する姿勢を表すとも読めます。日本・モンゴルの外交を見ていく上では、気になるところです。
なお、民主党バトトルガ候補、人民革命党ガンバータル候補の選挙公約については、こちらをご覧ください。
また2017年モンゴル大統領選挙については、過去のエントリも合わせてお読みください。