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【モンゴル大統領選挙2017】「半大統領制」のモンゴル

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 来月26日に予定されているモンゴル国(以下「モンゴル」)の大統領選挙。報道で見る限り、まだ選挙活動は本格化していないようですので、今の間にモンゴルの大統領制度の概要について、モンゴル国憲法等を踏まえつつ見てみましょう。

 

 

 さて、ひとくちに大統領と言っても、国により制度は大きく異なります。大統領が行政府の最高長官、あるいはそれ以上の権限を有する国もあれば、政治上の権限がほとんどない儀礼的存在になっている国もあります。あるいは、大統領の権限が強い一方で三権分立が徹底している国もありますし、一定の権限を持つ大統領がいる一方で、議会によって首相や内閣が選出されるという「半大統領制」を採る国もあります。

 

kotobank.jp

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 これらに照らすと、モンゴルの大統領制度は半大統領制に分類するのが良さそうです。モンゴルの大統領は行政長としての地位と権限を有する一方で、議院内閣制による制約も受けるためです。以下、それぞれ見ていきましょう。

 

1. モンゴルにおける大統領の地位と権限

 モンゴル国憲法では「モンゴル国大統領は国家の元首であり、モンゴル人民の統合を体現する者である」として、大統領の地位を定めています(以下、訳はすべて引用者)。

 また、大統領は軍の最高司令官であるとともに安全保障会議を主宰する軍事・安全保障面のトップでもあります。この他、国会の決定に対する拒否権、権限の範囲で内閣に活動方針を示すこと、外交上の全権、恩赦の権能、国家・軍の称号や勲章・メダルの授与といった権限を有しています。これを見れば、単なる「お飾り」でないことは明らかでしょう。

 

2. モンゴルにおける大統領の権限の制約

 ですが、モンゴルの大統領が強大な権力者であるかというと、決してそうではありません。内閣や国家大会議(国会)による制約を受けるためです。

 まず、モンゴルの大統領は自ら首相を任命することも、内閣*1を組織することもできません。首相や閣僚の任命や罷免は国家大会議の権限に含まれているのです。そういうこともあり、モンゴルでは大統領と内閣が異なる政党の出身者であることも珍しくありません。

 また、先程「権限の範囲で内閣に活動方針を示すこと」と書きましたが、これは裏を返せば大統領が首相や内閣に命令を下す権利がないことを意味します。行政のトップでありながら全権を把握しているわけでは必ずしもないのです。

 さらに、国家大会議に対しては、大統領は責任を負う立場です。国家大会議は大統領令が法に反すると判断した場合、その大統領令を破棄することができますし、大統領が宣誓や憲法に違反したと判断した場合、憲法裁判所の判断に基づき大統領を罷免することもできます。先程示した大統領の拒否権も、国家大会議の全出席者の3分の2が反対すれば覆されます(この辺、一院制二院制の違いこそあれアメリカと同様です)。一方の大統領は国家大会議に対して声明を発表したり、国会に出席して意見表明を行うことはできますが、直接法案を上程する権限はありません。立法への関与もきわめて制約されているのです。

 

3. まとめ

 以上、モンゴルにおける大統領制度について見てきました。旧社会主義国の中には大統領が独裁者に例えられるほどの権限を有する国もあれば、儀礼的存在に留まる国もありますが、モンゴルの大統領はその中間ぐらいに当たる存在と考えるのが適切でしょう。

 もっとも、このような制度が中長期的に変化する可能性はもちろんあります。過去3年間の世論調査「ポリトバロメートル」を見ると、望ましい政治体制について「政党の影響が制限される大統領制」を支持する意見が5割近くを占め、現在の体制を好む意見の倍以上になっています*2。このような背景から、大統領の権限をより強化する動きには注目しておくべきでしょう。折しも、モンゴルでは憲法改正の議論がなされているところです。

*1:ここで使われるモンゴル語засгийн газарは「政府」を表すこともあり、実際その通り訳されることもしばしばですが、ここでは指示する対象から判断して「内閣」と訳しました。

*2:ただし、同調査は地方での調査地点が限られるため、全国調査としては偏りが無視できません。もっとも、「政党の影響が制限される大統領制」は地方でより好まれる傾向があるようですが。