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「地域」研究者にして大学教員がお届けする「地域」のいろんなモノゴトや研究(?)もろもろ。

『アジアの安全保障2018-2019』に拙稿が収録されました

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 一般財団法人平和・安全保障研究所が毎年公刊している『アジアの安全保障』。2018-2019年版でのモンゴル国(以下「モンゴル」)の安全保障の特集について私が執筆を担当、このほど刊行されました。

 

 

  『アジアの安全保障2018-2019』は特集と各国・地域の安全保障上の出来事をまとめた年鑑です。その中で、今回はモンゴルの安全保障について特集が組まれました。

 最初に私が執筆のご依頼を頂いたときは、率直なところ驚きました。1つには安全保障の専門家でもない私にご依頼が来たのか、もう1つには、そもそもモンゴルの安全保障になぜ関心を持たれたのか、という疑問を感じたのです。モンゴルの軍事力はロシア・中国領隣国とは比べ物にならず、軍事面でのプレゼンスは皆無ですし、他方領土係争等、安全保障上の問題も起きておらず、安全保障上特筆すべきことがあるようには思えないのでした。

 ただ、お話を伺ってみて、モンゴルの安全保障に対する関心を感じるとともに、外交・安全保障に関心のある日本の読者の方々に、モンゴルについて発信することは価値があると判断し、お引き受けした次第です。

 具体的な内容は、ぜひ本書をご一読いただきたいのですが、ここではネタバレにならない程度で、拙稿で私が強調したかったことを2点申し上げておきたいと思います。

 第1に、モンゴルにおいて安全保障とは多面的なものである、ということです。安全保障というとどうしても軍事面が連想されますし、私自身も同様だったのですが、モンゴルの安全保障政策の方針を読めば、外交をはじめとする軍事以外のさまざまな面で、自国の存立を守ろうとしていることが分かります。*1

 第2に、モンゴルが自国を埋没させないために、多面的外交を活用している点です。しばしば言われることですが、モンゴルは北東アジアの全ての国と友好関係を持つ貴重な存在です。また、国連平和維持活動(PKO)への参加、国際軍事演習の実施等で、多国間の軍事協力にも力を入れています。アメリカ・ロシア・中国・日本・韓国が参加する軍事演習ができるのはモンゴルぐらいでしょう(他にあったら済みません)。国際的な平和構築に積極的に参加することで、自国の存在感を高めている点は、モンゴルの大きな特徴です。

 この2点を主張することに成功しているかどうかは、拙稿をお読みいただいた上でご判断いただきたいと思います。ただ日本のモンゴル研究者として、読者の方々にこの2点を伝えること自体は、十分な意義があると私は考えています。

 『アジアの安全保障2018-2019』につきましては、下記リンク先にてご確認の上、ご購入、お近くの図書館への購入依頼等、ぜひお願いいたします。

 

 

 

■ アジアの安全保障2018-2019―激変する朝鮮半島情勢 厳しさ増す米中競合 朝雲新聞社

 

 

*1:もっとも、その中には遺伝情報というのもあって、一つ間違えば優生思想に結びつきかねない危険も感じたのですが、今回は紙幅と論題の関係上省きました。ただ、この点はモンゴルのナショナリズムやナショナル・アイデンティティにも関わりそうなことなので、いずれ論じたいと思っています。