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それでも、東アジアのななめ上を目指す。

米朝首脳会談はウランバートルで開催されるのか?エルベグドルジ前大統領がツイートで提案【3/17追記】

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 朝鮮半島問題が急展開を見せる中、仲介役を自任してきたモンゴルからも動きが出てきました。エルベグドルジ前大統領がウランバートルでの米朝首脳会談をツイッター上で提案、トランプ米大統領に投げ掛けたのです。

 

 

 周知の通り、今月朝鮮民主主義人民共和国(以下「北朝鮮」)を訪れた韓国特使団に対し、金正恩朝鮮労働党委員長がトランプ米大統領との首脳会談を提案する親書を託し、トランプ大統領側も賛成の意向を示しました。

 これに反応したのが、昨年7月に2期8年の任期を終えたエルベグドルジ前モンゴル大統領です。前大統領はツイッター米朝首脳会談の開催合意に賛同、さらに会談をウランバートルで開催することを提案するツイートを発したのです。

 

 

 普段モンゴル語でツイートするエルベグドルジ前大統領が、わざわざ英語でツイートしていますから、より大きな反響を狙っているのは一目瞭然です(なのにリツイートは本エントリ執筆時点で3ケタ台にとどまっていますが、それはさておき)。

 しかも、前大統領はトランプ米大統領に対し、上記ツイートを引用する@ツイートを投げかけたのです。

 

 

 ツイッターを使われない方は、なんのこっちゃと思われるかも知れませんが、とりあえず「トランプ米大統領の目に触れそうなところで、ウランバートルでの米朝首脳会談を直接提案しようとした」ぐらいに思っていただければ結構です。

 このツイートへの反応なのか、世界の主要メディアもウランバートルでの米朝首脳会談の可能性について報じるようになりました。例えば、ニューヨーク・タイムズは会談が行われる可能性のある場所をいくつかリストしており、その中でウランバートルも挙げられています。

  

www.nytimes.com

 

 また、"The Diplomat"紙はさらに踏み込んでいて、ウランバートルで首脳会談が行われる可能性がある理由について、モンゴル政治・経済研究者のブリティッシュ・コロンビア大学Dierkes准教授とJargalsaikhan氏のコラムを掲載しています。

 

thediplomat.com

 

 ちなみに、どちらの記事もモンゴル語に翻訳されており、この件がモンゴル現地でも関心を集めていることが推測されます。

 

 では、米朝首脳会談は本当にウランバートルで開催されるのか?現時点では予測の域を出ないのですが、私自身の見立ては、「開催されても何の驚きもないが、現時点での可能性は低い」というものです。

 まず、ウランバートル米朝首脳会談を行う条件は十分に備わっています。簡単に言えば、モンゴルは北朝鮮に最も近い中立のプレイヤーであり、モンゴル政府自身がその立場を積極的に活用しようとしてきた経緯があるわけで、これは米朝首脳会談の開催には有利に働くと考えられます。

 少し詳しく見ていきましょう。モンゴルは韓国・北朝鮮双方と国交を有しており、この問題でのキープレイヤーであるアメリカ、日本、ロシア、中国を含め、いずれの国とも友好的な関係を保っています。確かに、北朝鮮による核・ミサイル開発に対してモンゴルは批判的ですし、国際社会と歩調を合わせて経済関係を縮小させています。とはいえ、2月にはツォグトバータル外相が北朝鮮を訪問するなど、政府間の関係は維持できています。

 モンゴル政府はこの立場を活用して、朝鮮半島問題、北東アジアの平和と安全保障への仲介者としてのアピールに努めてきました。とりわけエルベグドルジ前大統領は、在任当時に「ウランバートル対話イニシアチブ」を開始、この中で南北朝鮮および周辺諸国・地域の参加者による国際会議を開催するなどしてきました。加えて、日朝関係に関しては拉致問題での協力が特筆されます。2014年に拉致被害者横田めぐみさんの父滋さんと母早紀江さんが、めぐみさんの娘キム・ウンギョンさんらと対面したのがウランバートルだったことをご記憶の方もいらっしゃることでしょう。エルベグドルジ前大統領が米朝会談実現のニュースを聞いて、ウランバートルでの会談実現に名乗りを上げたのは当然の成り行きとすら言えます。

 つまり、モンゴルは朝鮮半島問題で「どちら寄りでもない」かつ「どの当事者にも近い」存在なのです。そして、この「近い」というのは物理的距離も含むものです。いかに中立地であっても、遠ければそこまでの移動が不安を生みます。これはとりわけ北朝鮮側にとって当てはまります。北朝鮮の過去の指導者は飛行機移動を-全く無いではないにせよ-避けてきました。ただ、ウランバートルならピョンヤンからの鉄道移動は難しくありませんし、実際故金日成主席はモンゴルを訪問しています(もっとも、氏はソ連・東欧も訪問しているわけですが)。

 ですが、だからといって米朝首脳会談の会場がウランバートルで決まりとはいえません。その理由は2つあります。第1に、「中立地」であればDMZ武装地帯)の方がはるかに近いです。特にパンムンジョム(板門店)では南北首脳会談も行われており、米朝首脳会談が不可能とは考えられません。ウランバートルが選ばれるとすれば、何らかの理由でパンムンジョムが避けられる場合でしょうし、少なくとも私にはその理由は思いつきません*1

 第2に、現時点ではバトトルガ現大統領の多国間外交に対する積極性に疑問符が付きます。件のツイートの主であるエルベグドルジ前大統領は、あくまで「前」大統領です。米朝首脳会談のウランバートル開催を実現させたければ、現在の大統領と大統領府が動かなければなりません。ところが、昨年就任したバトトルガ大統領は、就任直後にこそ2度の外遊を行いましたが、それから現在まで新たな外遊は確認されていません。エルベグドルジ大統領が出席していた国連総会と世界経済フォーラム上海協力機構の首脳級会合にも欠席しており、むしろ報じられるのは国内、地方の視察と国民との集会です。もちろん会談する両国が両国なので、水面下で動きがある可能性は否定できませんが、現時点でのバトトルガ大統領の姿勢を見る限り、そのような動きを想像するのは困難です。

 以上を総合すると、確かにウランバートルでの米朝首脳会談開催は想像可能です。したがって、実際にウランバートルで会談が開催されても驚くにはあたりません。しかし、現状では他に有力な候補があり、かつウランバートルが開催地となるべく動いているようにも思えません。そうである以上、開催の可能性は低いと判断されるのです。

 ただし、これはあくまで現時点でのことです。モンゴルがアメリカ・北朝鮮双方に積極的に働きかけるとなれば、状況が変わることもあるでしょう(現時点でそうなりそうな気配は見えないのですが)。それだけに、ウランバートルでの米朝首脳会談の可能性を知るには、まず現大統領官房の動きを見ることが必要となります。

 

【3/17追記】

 「現大統領官房の動き」が出てきました。Z.エンフボルド大統領官房長官がオ・スンホ北朝鮮駐モンゴル大使と会談、この中で北朝鮮・アメリカ双方と友好関係がある数少ない国の1つとして、両国間で話し合われている米朝首脳会談を行うことが完全に可能であると北朝鮮大使に提案したのです。

 

dnn.mn

www.montsame.mn

www.sonin.mn

time.mn

www.montsame.mn

 

 さらに、エンフボルド長官はMicaller米駐モンゴル代理公使にも米朝首脳会談開催の可能性をアピールしました。

 

www.sonin.mn

time.mn

 

 本文では「水面下で動きがある可能性は否定できません」と書きましたが、そう書いている最中で、しかも水面下どころか上で動きがあったことになります*2。ニュースチェックが間に合いあわず、お恥ずかしい限りです……

 とはいえ、これで大統領官房の姿勢は明らかになりました。オ大使は態度を明確にしていませんし、肝心のバトトルガ大統領は相変わらず地方視察と集会に出掛けていますが、僅かながらウランバートルでの米朝首脳会談開催の可能性が上がったとは言えるでしょう。トランプ米大統領ではありませんが、See what happens-何が起きるか見てみましょう。

*1:ただし、この辺は朝鮮半島政治に詳しい方なら何か思いつくかも知れません。専門家のご意見を仰ぎたいところです

*2:記事の1つは配信時間が16日午前2時3分となっていますが、フィーダーと照合すると矛盾します(実際、当該の新聞社の記事配信時間はおかしなものが多く、普段から信用していません)。とはいえ、本エントリを執筆中に動きがあったことは確かです。