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「地域」研究者にして大学教員がお届けする「地域」のいろんなモノゴトや研究(?)もろもろ。

シリーズ土佐の駅(増2)大栃駅(JR四国バス大栃線)

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 土佐山田駅から物部川沿いを走り、次第に山深くなる道を40分ほど走ってきたバスは、終点の大栃駅へと到着しました。旧国鉄時代からの自動車駅、地方路線バスの終着点……しかし、そんな言葉から連想する駅のイメージは、現地で打ち砕かれました。

 

 

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 バスは長らく走って来た国道195号線と別れ、坂を上って集落のふもとまで来たところで大栃駅に到着。ここで乗客を降ろした後、車庫に入ります。

 

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 車庫の隣には「モーター」と自転車置場。どうにも今風でない言葉遣いの看板を見れば、ローカル線の駅前という雰囲気が感じられそうなものです。

 しかし、大栃駅の駅舎は、そんな雰囲気とは真逆のものになっています。

 

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 バスを降りて目に入ったのは、インパクトのある壁画。車庫の斜め向かいが大栃駅の裏手。見ると大きなヘビが、今にも窓を飲み込まんとしています。

 

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 側壁はさらにカラフル。旧物部村の緑と物部川、その中で暮らす生き物たちが描かれています。

 

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 大栃駅の正面は、これでもかというほどに色彩が展開しています。見た目にも新しく、色も明るい屋根瓦も手伝って、駅名板がなければ、ここがバスの無人駅とはとても思えません。

 

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 ただ中に入ると、やはり駅の佇まいが漂っています。右手には美良布駅同様、カウンター跡と思しきものがあり、元はきっぷ売り場があったことが見て取れます。

 ここはかつて国鉄バスの支線がいくつも伸びていたターミナル。それらの路線は既に全て廃止され、JRバスとして残るのは土佐山田駅行のみとなってしまいましたが、その代わりに今は市営のバスが駅に乗り入れ、JRバスとの乗り換えの拠点になっています。

 

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 駅の奥にはもう一つ車庫があり、コミュニティバスデマンドバスが待機中。美良布駅とともに、大栃駅は「駅」の名と体を今も保っています。

 

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 駅舎から道を隔てた先に広がるのは、奥物部湖の名でも親しまれる永瀬ダム。今の大栃集落の三方を囲んでいます。

 

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 道路を渡って見ると、ダムのほとりにヘリコプターの発着所を見つけました。

 ひとたび災害が起これば、土砂崩れ等で地上の交通が寸断されかるリスクを孕む高知県。各地に建設されているヘリの発着所は、有事の際の貴重な備えです。

 

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 視界の先には、奥物部湖が続いていきます。この湖が終わったところから物部川が流れ出て、香美市を横断した後、進路を南に変えて太平洋へと注ぎ込んでいきます。

 

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 駅の近くには、観光地への案内標識が立っています。その横には林道の通行止を示す注意書があるのですが、予算も人手もないのか、復旧の見込みは今のところなし。ただ通行止となっているのはここから40キロ近くも先の話。時間・距離のスケール感の違いに唖然とするのみです。

 

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 駅からさらに先、標識で「商店街」と書かれてあったのはこの道路です。カーブを曲がれば、確かに商店もあり、中山間地では貴重なガソリンスタンドも営業しているようです。

 

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 駅から土佐山田方面。左に曲がった道はすぐに国道195号線と合流し、西南へ。奥に見える湖上の鉄橋を渡り、少し走れば、右手に物部川が見えてきます。

 

 

 

 

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 土佐山田駅からのバスが到着しました。この10数分後に上りのバスが発車します。

 

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 発車時間の少し前。駅に入って来たのは、先程とは異なるカラーのバスです。大栃に来たバスはそのまま折り返すのではなく、その1本前に到着したバスが、次の便を担うようです。

 そして、大栃線のバスは、1台1台独自のカラーとともに、どれもアンパンマンの全面ラッピングを纏っています。

 

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 車内に入ると、座席、側壁、天井、すべてアンパンマンのキャラクターで埋め尽くされています。

沿線にあるやなせたかし記念館への乗客は、人口減が続く地域を走る路線バスにとって貴重な存在。こうしてミュージアムへの交通手段であることをアピールしているのです。

 

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  行先表示幕のカバーに大きく描かれたアンパンマンのイラスト。土佐山田駅からのバスで乗り合わせた幼い子どもが歓声を上げているのを思い出しました。

 もっとも、大栃からミュージアム前からは、子ども向けの観光施設など見当たらないローカル線。高齢化した地域の人々の生活や、ふらりと訪れる旅人を童心でくるみながら、バスはまた走り出していきます。