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人には添うてみよ、馬には乗ってみよ、酒には酔うてみよ。

昔の鉄道写真から:阪神電鉄最後の行先表示板付普通型車両

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 阪神電鉄でも他の私鉄同様、行先表示幕が整備される前は、案内板で行先を示していました。ただ、中には行先表示幕がありながら、案内板を使っていた例もあります。かつての支線の列車がそうですが、本線でも2両だけ、そんな車両がありました。

 

 

 写真は5131形5143号車。各駅停車用に製造された車両、通称「青胴車」のうち、大阪方の先頭を務める車両です。この車両と5144号車は2両でユニットを組んでいて、他の普通用車両2両とともに、4両編成で本線の各駅停車として運用され、基本的に大阪・神戸間を行ったり来たりしていました。

 このユニットは新製当時は行先表示幕がなく、行先を示すのに表示板を使っていました。その後、別の2両ユニット、5339号車と5340号車と4両の固定編成を組むべく改造を受けた際に、表示幕が取り付けられ、以後はそちらで行先を示すようになりました。

 

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 同じ形式の別の車両です。行先表示幕が普通梅田行を示しています。行先表示幕は車体の横にも1つずつ付けられていて、同じデザインの表示が示されます。5143号車も、5144号車も、かつては同様の表示を掲げて、阪神間を走っていました。

 そんな中、1995年1月17日、阪神・淡路大震災が起こりました。

 6千人余りの人々の生命を奪った地震は、大阪と神戸の間を結ぶ阪神電鉄にも甚大な影響を与えました。崩壊した車庫、落下・崩落した高架橋と、被害に巻き込まれた車両の姿はあまりに衝撃的でした。特に本線の被害は深刻で、一時は全線復旧の目途すら立たかったほどです。

 5143号車、5144号車自体は、地震によるダメージはありませんでした。しかし、他の普通用車両で被災、復旧不可能なものが出てきたため、編成替えを迫られることになりました。4両編成は分解され、5339号車と5340号車は、被災により編成を組む相手を失った別の車両に連結されることになりました。そして、残る2両が新たに編成を組んだのが、行先表示幕を持たない普通車両でした。これ以降、5143号車と5144号車は表示幕ではなく、表示板を使うようになりました。

 

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 その後の5143号車を撮影したのが、冒頭とこちらの写真です。行先表示幕は「普通」という表示のみのもので固定され、もはや行先は示しません。行先を示すのは、運転台のすぐ下にある表示板。梅田と高速神戸の駅名が、表示板に差し込まれています。

 

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 5144号車と5313号車の連結面。もともとの形式が違うこともあり、微妙に車両の高さがずれています。地震の直後、5144号車が連結されていたのは別の形式の車両だったのですが、それが廃車となったあと、5313号車と連結されるようになった経緯があります。

 

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 5313号車とユニットを組み、神戸方の先頭車両となる5314号車。見ての通り、先頭に表示幕はありません。その他、5143号車では車両の下端が丸まっていたのが、5314号車では下まで直線的に落ちているなど、細かく見れば違いはいろいろ見つかります。この写真を撮った時は、たまたま表示板の入れ替え中で、運転士が貫通扉から駅名を示した板を差し替えていました。

 

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 梅田・高速神戸間の表示板。当時から現在に至るまで、阪神電車の普通の大半が、この区間を走ります。

 ただ、この写真を撮った当時、5313・5314号車は普通用車両としては既に最古参の車両であり、いつ引退しても不思議はありませんでした。事実、それから1年ほどでこの2両は引退。そして、みたび編成を組む相手を失くことになった5143号車、5144号車は、今度は新たな相手を見つけることはなく、運命を共にしました。

 

(参考)

ksweb.org

 

 阪神・淡路大震災によって被災し、編成替えを余儀なくされた車両は他にもあります。ただ、地震から年月が経ち、新たな車両が相次いで登場する中で、それらの多くは徐々に廃車となりました。編成替えを経験した中で、現時点で残っているのは4編成だけです。

 地震の爪痕は、その記憶とともに、過ぎ去った出来事になろうとしています。

 決して止まらない時の流れから、こぼれ落ちた者を残して。