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人には添うてみよ、馬には乗ってみよ、酒には酔うてみよ。

元朝青龍の実兄スミヤバザル氏がモンゴル鉱業・重工業相就任

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 モンゴルでは今月フレルスフ新首相率いる内閣が発足、その一員として、元朝青龍ダグワドルジ氏の実兄スミヤバザル*1氏が鉱業・重工業相に就任しました。今回は日本でも報じられたこの人事について。

 

 

 先程「日本でも報じられた」と書きました。具体的に私が把握しているのは、以下の2件の報道です。ひとつは、日経によるもの。

 

www.nikkei.com

 

 もうひとつは日刊スポーツ。スミヤバザル氏は元総合格闘家なので、スポーツ紙が報じるのも分かりますが、「人民党に入閣」って、ヘンな感じがします。

 

www.nikkansports.com

 

 ともあれ、元朝青龍ダグワドルジ氏が大統領特使に就任していますので、これで兄弟で政府の要職に就いたことになります。ただしダグワドルジ氏は民主党出身のバトトルガ大統領の下に就き、スミヤバザル氏は人民党単独内閣の閣僚になるわけで、同じ政府で役職に就く兄弟が、モンゴル二大政党双方に分かれた形になります。

 スミヤバザル氏が入閣した経緯は7月の大統領選挙に遡ります。以前何回かお伝えした通り、人民党はこの選挙でエンフボルド国会議長を候補に立てたのですが、決選投票の末落選。そのため党内から責任論が噴出、矛先は当時のエルデネバト首相にも向かいました。この過程で与党人民党所属の国会議員は首相解任派と解任反対派に分かれ、前者は野党議員を巻き込みで首相解任案を国会に上程しました。この案にはスミヤバザル氏も署名しており、氏が首相解任の動きに加わっていることが分かります。手元にはモンゴル語報道しかありませんが、ともあれ署名が確認できる資料を示しておきます。

 

dnn.mn

 

 さらに、首相解任の動きにフレルスフ副首相(当時)までもが同調、結果としてエルデネバト首相解任案は本会議で可決、内閣総辞職となりました。

 その後、後任の首相として与党人民党が選んだのは、前首相を退陣に追い込んだ張本人のフレルスフ前副首相。意外な人事でしたが国会での承認を受け、組閣に移る過程で、スミヤバザル氏が鉱業・重工業相候補に選ばれたのです。モンゴルでは日本とは異なり、閣僚候補の任命案については個別に国会で審議されるのですが、スミヤバザル氏については出席者の9割近い賛成を受けて承認されています。

 こうして就任したスミヤバザル新大臣ですが、前途は多難です。鉱業部門はモンゴルにとって鉱工業生産と外貨獲得の最大の柱ですが、輸出先はほとんどが中国一国となっており、中国依存からの脱却が積年の課題となっています。加えて、鉱業開発に必要な投資は外国資本に頼ることになりますが、ここ数年でモンゴルへの外国投資は激減、回復への道筋は見えません。一方で、外資主導の開発に対しては国民感情も決して良いわけではなく、資源を外国に奪われるという反感や、環境保護を訴える運動(さらには環境保護運動に名を借りた排外主義や極端なナショナリズム)も見られます。さらに、鉱物資源は価格変動の影響もモロに受けます。一方、重工業については、小規模な自動車・機械加工を除けば、生産らしい生産が見られないような状態で、課題山積以前の問題と言えるでしょう。

 さらに、新内閣自体も問題を孕んでいます。先に述べた通り、人民党は前内閣解任問題を巡って対立が表面化しており、今回の人事は解任賛成・反対派の妥協の産物とも言えるものです。名簿を見ると、現職の国会副議長(大臣就任にあたって退任)や閣僚経験者等の大物が入っていますが、それだけにフレルスフ新首相が統率しきれるのかという疑問が生じます。

 また、国民の支持がどれだけえられるかも微妙です。女性閣僚の少なさも相まって、新内閣は新味のない印象を与えます。また、新内閣が首相以外すべて国会議員が任命されたのもマイナスポイントです。日本では考えられないことですが、モンゴルでは国会議員が閣僚を務めるのを「重ね着」と言って批判する傾向があります。既に野党は「重ね着」について批判を強めています。その上、モンゴルでは最近教員・医師の賃上げ要求が続いており、教員のストライキまで起きていますが、首相や蔵相はIMFとの協定を理由に賃上げに否定的で、問題がこじれれば、この点でも国民の反感を買う恐れがあります。他方で、労働・社会保障相は賃上げの可能性を模索しており、閣内不一致の可能性もあります。

 そして、以上の問題が仮になかったとしても、新内閣が長く持続する可能性は非常に低いと言わざるを得ません。モンゴルでは4年に一度の総選挙のたびに与野党の構成が変わってきました。当然首相はじめ内閣人事も、総選挙後にすべて入れ替ってきたのです。人民党が2020年の総選挙で勝てば首相続投の可能性もあるでしょうが、何せ政権与党が総選挙後にそのまま政権を担当した経験がないので、その場合も内閣改造が手つかずで済むとは言えません。むしろ諸外国の例を見れば、仮に人民党が勝ったとしても、内閣人事が行われる可能性の方が高いでしょう。

 そう考えると、スミヤバザル新鉱業・重工業相に与えられた期間は、最大でも次の総選挙まで。実質的に、長くて2年と8ヶ月程度しかないことになります。この限られた間に、立ちはだかる幾多の壁をどこまで打ち破れるか?これはモンゴル経済にとって最大級の難題と言えるでしょう。そしてこの難題は、鉱業部門への投資家たる日本にとっても、決して無縁ではありません。

*1:モンゴル語の発音からすると「ソミヤーバザル」という表記した方が近いのですが、氏自身が上掲のカナ表記を使っている可能性を考え、修正しておりません。