高知県南西部、四万十川が流れる谷あいからさらに奥に、突如現れた「海洋堂ホビー館四万十」。四国随一のローカル線たる予土線の小さな無人駅、打井川駅は、模型・フィギュアでその名も高い会社が建てたミュージアムの最寄駅になったのです。
打井川駅を出たのは、海洋堂のフィギュアを乗せた、宇和島行のホビートレイン。国鉄終焉期に簡素極まる設計で作られた小型ディーゼルカーは、ミュージアムの出現によって趣味性の高い車両へと変身しました。
そんな車両が行ってしまうと、沿線は谷間を走るローカル線の顔をすぐさま取り戻します。
非電化単線の途中に置かれた、無人のささやかな棒線駅。日本の田舎にありがちな小さな駅が、模型とフィギュアの世界への入口になっています。
他の駅と大きさではそう変わらない待合所。ただベンチが長椅子ではなく、個別になっているのは、この辺では珍しいものです。
1日6本しかない列車は、全て窪川と宇和島を結びます。県都高知はなお遠く、運賃表では、市内の駅はひとつたりとも載っていません。
四万十川に面したホームに、海洋堂ホビー館の案内板が出ています。ミュージアム自体は駅から見えないだけに、案内板がなければ最寄駅とはまるで分かりません。
四万十川の岸辺よりも高いところにある駅。細い階段を降りて、駅の近くを歩くことにします。
この辺りでは東から西に流れる四万十川。どうみても山が深まる方角に流れているのですが、川はここからしばらく先で進路を大きく変えて、海を目指すようになります。
駅前には広場も駐車できる場所もなく、2車線の道路が左右に伸びるだけ。駅の近くの集落には、橋を渡って行くことになります。
橋へ向かう途中にバス停があります。特に停車スペースは設けられていないのですが、待合所に小さな標柱、隣にある掲示板に掲げられた時刻表が、ここがバス停であることを示しています。
小さなバス停の標柱の小さな時刻表。ホビー館へは駅から5キロ、ここからバスに乗って行くことになりますが、バスがあるのは休日のみ。平日は連絡して送迎を出してもらうことになります。
橋との三叉路に出てきました。さまざまな看板が出ていますが、やはり目立つのはホビー館のものです。
四万十川に架かる橋。向こう岸には国道381号線、こちらは須崎市と宇和島市を結んでいて、大型車両が時折スピードを上げて走っていきます。
国道の傍らには、四万十川の名を掲げる案内板が掲げられています。ただよく見ると、「一級河川」の横にあった「渡川」という文字が消されているのが分かります。渡川は法律上の名称になりますが、本来は下流域の旧中村市付近のみを指す呼称で、この辺りに関しては四万十川で間違いないとも言えます。
四万十川源流方面。こちらはむしろ太平洋に向かっているのですが、あくまでこちらが源流方面。川が流れるのは、こちらから反対側です。
そしてこちらが河口方面。集落と駅が両岸で向かい合っています。
川を渡って、国道側の岸に来ました。道の駅あぐり窪川がここから18キロという案内板があります。
反対側にも道の駅の案内板が、しかも2箇所分掛かっています。この辺りだと西土佐にも道の駅があり、あらためて集中ぶりを実感します。
対岸の駅を望みます。山林は川岸まで迫っています。
川岸の土地はごく僅か。そこを縫うように線路が走り、駅がせり出しているのが分かります。
駅の待合所の壁に、駅名が大きめに示されています。JR四国の水色のロゴも、あまり見かけない気がします。
駅前に戻り、再び階段をホームへと上がります。降りる時は気にならなかったのですが、途中から、コンクリートの階段が法面からせり出した鉄製のものに変わっています。
階段を上がって見ると、コンクリートの階段が途中で仕切られていました。かつてはこちらの階段でホーム上まで上がっていたのが、何かの理由で付け替えることになったのでしょう。もっとも、その理由はピンときませんが。
ホームに上がってきました。
線路の反対側には木々が迫ってきています。深い谷あいの土地、人間が利用できる場所は限られています。
ディーゼル音に続いて、線路の揺れる音が聴こえてきました。次の宇和島行の到着です。
全国にその名を知られているであろうミュージアムの最寄駅で、乗降客は1人だけ。
あくまでローカル線の中のローカル線にある無人駅を、たった1両の小型ワンマンカーが発車していきます。