夕方からは今回の訪問最後のイベント、「トゥメン・エフ・アンサンブル」のパフォーマンスを観に行きます。会うモンゴル人がこぞって観覧を勧めてきて、かえって引く部分もあったのですが、どれほどのものか気になる部分ももちろんあります。
スフバータル広場から南に少し歩いたところにある大規模な公園。この中にトゥメン・エフ・アンサンブルのホールがあります。
公園のゲートにあったレリーフ。なぜかモンゴルっぽくない感じを受けました。
ゲートを抜けてさらに進むと、左手に赤い建物が見えます。これがトゥメン・エフ・アンサンブルの劇場です。
玄関まで来ました。いかにも社会主義時代に建てられた感がある(モンゴルの)洋風建築に、東洋風の玄関が取り付けられているのが、かえって現在のモンゴルを表しているようです。
軒先にはトゥメン・エフ・アンサンブルのプレートが掲げられています。オペラ劇場やドラマ劇場のあるウランバートルですが、特定の団体専用のホールというのは他にはないのではと思います。それだけこの団体の羽振りが良かったり、人気だったりするのでしょう。
調べてみたら、夏は1日2公演、9月でも毎日公演があるそうです。それで観客がしっかり入るのだとしたら相当なものです。
さて入場します。チケットは1人当たり25,000トゥグルグ(トグリグ)*1日本円では1,100円ちょっと、相当強気の価格設定です。写真やビデオ撮影には追加料金が必要なので、こちらは遠慮します。ってことはここでもお見せしようがありませんので、その点はご容赦の程。そしてホールはかなり小さめですが、ステージと客席のフロアが同じで距離もほとんどないので、臨場感はかなりあります。
そして肝心のパフォーマンスなんですが……圧倒されました。
内容はモンゴル国の伝統芸能を一通り集めたもの。音楽だけでも馬頭琴ソロにアンサンブル、長唄オルティン・ドー、一人が同時に重唱するホーミー、チベット仏教音楽等が次から次へと出てくるのですが、他にも集団舞踊にシャーマンのパフォーマンスや身体を自在に折り曲げるオラン・ノガラルト、チベット仏教仮面劇ツァム等、モンゴル国民が「伝統芸能」として誇るであろう芸能をあらかた繰り出してくるのです。
しかも、どれも単なる「伝統芸」ではなく、パフォーマンスとして洗練されているのが伝わるものになっています。1時間半ほどの上演時間はあっという間でしたが、モンゴル国の定番的な芸能を一通り、高いレベルで見られるのですから、そりゃモンゴルの人が勧めるのも至極納得です。家族にも良いものを見せることができました。偶然とはいえ、ザナバザル美術館でツァムの仮面を事前に見ていたのも役立ちましたし。何より、私自身にとっても良い機会でした。
それとともに、玄関のプレートで"Үндэсний"という言葉があったのも、そりゃそうだよなという感じがしました。この単語は英語のnationalに当たる言葉なのですが、ここで披露されたのは「モンゴル」というネーション、あるいはその意識を共有する人々が「自分たちの伝統芸能」とみなすものだったわけです*2モンゴルはモンゴルでも、モンゴル国の「伝統芸能」です。なので、この単語を「民族」と訳すのは誤解を招く恐れが強く、ただ「国立」かどうかは分かりませんし「国家」「全国」もいかがなものか。あくまでナショナルなものとしか言いようがありません。
矢継ぎ早に展開されていく「伝統的」パフォーマンスを前に、かえって近代国家の厳然たる存在を感じたのも、私の主観的な事実ではあります。
ともあれ、パフォーマンスは盛り上がった末に終了。外へ出ると、流石に暗くなってきています。
暮れ行く空にトゥメン・エフ・アンサンブルの電光表示が光ります。ややこしいことを考えるおっさんなどは関係なく、これからもこのグループは人々を圧倒していくのでしょう。とはいえ、それ自体は非常に良いこと。私もまたここに誰かを連れて行く機会がありそうな気がします。
というところで、今回の滞在予定は終了。ホテルに戻って荷物を受け取り、送迎の車でチンギス・ハーンホテルを後にします。ウランバートルともしばしのお別れです。
帰りもインチョン経由の乗り継ぎ。ただしインチョンには未明に着いて、午前中に関空行に乗り換えることになります。
深夜便でも機内食はしっかり出ます。モーニング豆腐というネーミングが素敵です。
朝4時前にインチョン到着。施設はあらかた閉まっています。ただ仮眠スペースがあるので、そちらで休む……人を横目に、こちらはメールの確認と返信と原稿執筆。そろそろ仕事モードが戻ってきます(涙
朝になると無料シャワーが使えるようになります。タオルやドライヤー、歯磨きセットの貸し出しもあるので、以前から重宝しています。
そして関空便に乗る時間が近づいてきました。行くまではどうなるものかという心配もあったモンゴル旅行ですが、終わるとなると本当に寂しいものです。
いよいよ関空行搭乗。韓国も久しく訪れていないので後ろ髪を引かれる思いはありますが、ほどなく飛行機はインチョンを後にしました。
……と感傷的になりつつも、機内食はしっかりとります。今回もパンの軽食、いつぞやのおにぎりはなんだったのか。
そしてビールでダメを押す間に飛行機は日本に入り、しばらくして順調に到着。生まれて初めてモンゴルを純粋に楽しむ旅行は、無事終了しました。
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(了)