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人には添うてみよ、馬には乗ってみよ、酒には酔うてみよ。

『バッタを倒しにアフリカへ』読後感

 かねてより気になっていたバッタ博士前野ウルド浩太郎氏による『バッタを倒しにアフリカへ』をようやく読むことができました。書評というほどのものは書けませんが、本自体の情報も含め、いろいろ思ったことをシェアしたいなぁと。

 

 

 この本はサバクトビバッタの研究と卓越した広報能力によってファンが続出中の人呼んで「バッタ博士」、前野ウルド浩太郎氏がアフリカ・モーリタニアで繰り広げてきた研究という名の死闘とサバイバルの記録です。

 ちなみに、モーリタニアとはこんな国です。

 

www.amba-mauritania.jp

 

 漁業絡みで意外と日本との縁がある国で、皆さんも知らないうちにモーリタニア産の魚介類を食べているのではと思います。気になったら海産物売り場に行ってみましょう。

 話を戻して、この本は新書なのですが、とにかく表紙からしてインパクトが凄い。後でご紹介するリンクでも出てきますが、出版社のページでももちろんご確認いただけます。

 

■ バッタを倒しにアフリカへ 前野ウルド浩太郎 | 光文社新書 | 光文社

 

 ちなみに、裏表紙の写真とコピーはもっとすっ飛んでます。

 というバッタに喰われる前に人を喰ったような筆者ですが、本書で展開されるストーリーは別の意味で壮絶です。サバクトビバッタを研究室の中ではなく、蝗害に苦しむ現場で研究するために博士取得後に単身モーリタニアに渡り、肝心のバッタが見つからなかったかと思えば地雷原に遭遇し、その他笑えるものから笑えないものまでトラブルにわんさと見舞われ、果ては収入源が途絶えるところまで追い込まれながらも、バッタ研究(に加えて幼少の頃からの願望)に人生の全てを賭けた男の、まさに死闘の記録が、この本なのです。カバーに書かれた「修羅への道」というのは大袈裟でも何でもありません。

 この本については既に各所で感想が書かれていますし、書評としては「クマムシ博士」堀川大樹氏のものが優れているので、ご一読をお勧めします。

 

horikawad.hatenadiary.com

 

 その上で屋上屋を重ねるのもどうかとは思うのですが、そうは言っても、この本はその存在を人に伝えたくなるほどの魅力を持っています。

 まず、何よりの魅力は筆者の軽快な文章です。先にも書いたような山ほどのトラブルに遭遇すれば、自分が悲劇のヒーロー/ヒロインになったと思ってしまい、そんな悲劇性を強調したくなってしまいそうなものです。ですが、筆者はあくまでそんな自分を面白おかしく、かといって奇をてらわずに表現することに成功しています。そのおかげで、とんでもない経験を重ねた研究者がとんでもない経験を書いた本でありながら、重苦しい思いをすることなく一気に読めてしまいます。

 また、本書に登場する人々も魅力的です。運転手ティジャニは、ときに唖然とさせられますが、砂漠の国モーリタニアを縦横無尽に走り回ることのできる、著者にとって頼れる相棒です(ちなみにフランス語のできない著者と英語や日本語のできないティジャニの間では独自のコミュニケーションが発達したそうで、ぜひ見てみたいものです)。そしてサバクトビバッタ研究所のババ所長は、バッタの大量発生による食害との闘いに人生を捧げる闘士であり、遠い日本から来た駆け出しの研究者が少しでも快適に過ごせるよう心を配り、そして無収入に陥った著者を励まし、研究所での研究を続けることを認める懐の広い人物です。本書を読めば、彼らに対する著者の敬愛の念が伝わってきます。そして同じように、著者も彼らに仲間として認められていることでしょう。「ウルド」の名は、その何よりの証しです。

 さらに、研究者として本書と接して強く感じたのが、眩しいな、と。

 研究者というと、四六時中ストイックに、研究対象に向き合っているイメージがあるかも知れません。ですが、悲しいかな(?)研究者も人間です。関心が他に向かうこともあれば、感情の波もあります。

 何より、研究者も他の人間同様、生きていかなければいけません。ただ、本書でも述べられているように、大学院修了後の研究者は、ほとんどが不安定な立場に投げ込まれます。任期のない仕事にすぐに就ける人はごくわずか、残りは任期のついた研究員になるか、非常勤の仕事で食いつなぐしかありません。人によってはそんな職もなく、「オーバードクター」という無給の研究員になる場合もあります。

 なので、任期切れが近いのに次の仕事が見つからなかったり、非常勤の雇い止めに遭ったり、貯金が尽きたりした時に、研究者は選択に迫られます。このまま今の研究を続けるか?何か別のアプローチを考えるか、思い切って研究分野や手法を変えるか?

 理想はあくまで第1の選択肢です。ただ、これは基本自殺に等しい選択です。それまでの研究で仕事がなくなったのですから、そのまま続けても路頭に迷うだけです。食うに困るだけでなく、社会的立場も得られません。何より、設備の整った研究機関でなければできない研究もあれば、カネのかかる研究もあるわけで、所属先や収入を失った時点で研究者としての道が途絶えることも普通にあるのです。

 そんな状況に追い込まれて、それでも生きていきたければ、さらに研究者でありたければ、当初の志を変えざるを得ないことはままあります。私自身、研究分野や手法に関してはあちらこちらへと彷徨ってきたのが正直なところです。

 しかし、本書の著者はあくまでバッタをフィールドで研究することにこだわりました。そして、掟破りとも言える広報戦術も駆使しながら、自分の研究にしがみつくことで活路を見出したのです。職業としての研究者にとって、理想であり、そして理想で終わってしまう道を切り拓いた人がここにいるのです。だからこそ、私のように曲がりくねって生きてきた研究者からすれば、直線突破に成功した著者は輝いて見えますし、眩しいのです。

 そして翻って、自分ってどうなんだろう、という思いが湧く部分もあります。今までの彷徨が無駄だったとは思っていませんし、右往左往したからこそ研究が続けられるようになったのも事実です。ただ、1つのフィールドから逃げずに向き合ってきた著者の姿を見ると、自分の遍歴ってどうよ、と問い直したくなるのも正直なところです。

 ただ、著者どうやらテニュア・トラックの仕事に就けているようです。つまり、現状では任期はあるものの、その期限内の成果が認められれば、任期のない契約に切り替わるのです。ということは、上手くいけば私より若くパーマネントの地位を得られるかも知れません。そこに救いと希望を見出したいですし、ぜひ実現してほしいものです。

 という非常にマニアックな感想も書きましたが、研究者でなくても、本書を読み終えればきっと爽快な読後感を味わうことができることでしょう。あるいは困難にどう立ち向かうかというビジネス書として、進路に迷う学生・生徒への応援として、本書は役に立つようにも思います。研究者でも呆然とするぐらい「ここまでやるか」という研究者の生きざま、とくとご覧ください。

 

バッタを倒しにアフリカへ (光文社新書)

バッタを倒しにアフリカへ (光文社新書)

 

 

 ちなみに著者のブログもありますのでご紹介。

 

d.hatena.ne.jp