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【モンゴル大統領選挙2017】2回目投票(決選投票)はバトトルガ候補優勢、大統領選出へ

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 モンゴル大統領選挙の2回目投票(決選投票)が7時実施されました。一部投票所の開票や集計結果の連絡に遅れが出ていますが、民主党バトトルガ候補が過半数を僅かに上回る票数で当選するのはほぼ確実な情勢です。

 

 最新の開票速報はニュースサイト"Go go medee"で見ることができます。ただし、開票作業は終わっていないので、本エントリで示した票数が今後変わり得ることをご留意ください。

 

■ Ерөнхийлөгчийн Сонгууль 2017

 

 これによれば、投票率は60.86%で投票者数は1,206,642人。初回投票よりは低い数字になりましたが、50%は上回り、追加投票の必要は無くなりました。

 そして、初回投票で首位に立った民主党バトトルガ候補は全体の50.59%に当たる610,472票を獲得。一方の人民党エンフボルド候補への票は全体の41.16%に当たる496.668票に止まりました。バトトルガ候補はエンフボルド候補にこそ10万票以上の差をつけましたが、白票を含む有効票の50%以上という条件すれすれの得票だったわけです。

 そして注目された白票は全体の8.24%となる99,428票を記録しました。初回投票での白票は手元計算で17,663票なので、5.6倍ほどに膨れ上がったことになります。そして、バトトルガ候補への得票のうち、もし7,200票程度が白票になっていたら、当選者なしで選挙やり直しになっていたところです。これを見る限り、バトトルガ候補はエンフボルド候補と白黒をつけるのには成功したものの、選挙自体は辛勝にとどまったと評するべきでしょう。

 この結果を踏まえた上で、個人的に気になるのが、初回投票でガンバータル氏が得た409,899票の行方です。もちろん個々の投票者の行動は分からないので、ざっくりとした考察になりますが。

 まず、ガンバータル氏に投票した人が2回目投票で取り得る行動は基本的に4パターンです。つまり(1)バトトルガ候補への投票、(2)エンフボルド候補への投票、(3)白票を投票、(4)選挙に行かない、という4つです。初回投票と比較してそれぞれのパターンがどれだけ増えたかを見れば、ガンバータル候補への投票がどう流れたか、だいたいの傾向を伺うことはできます*1。なお、ここで初回投票のデータは選挙中央委員会の発表に基づいています。

 

■ ..:: Монгол Улсын Ерөнхийлөгчийн сонгуулийн 2017 оны 6 дугаар сарын 26-ны өдрийн санал хураалтын дүнгийн нэгтгэл - Сонгуулийн Ерөнхий Хороо ::..

 

 そして結論から先に書けば、ガンバータル氏への投票は四散した、となります。どれか1つのパターンに集中したということはありません。ただし、最も多かったのは(4)のパターンでした。

 まず、バトトルガ候補は初回投票から2回目投票で92,994票の上積みに成功しています。一方、エンフボルド候補も得票を増やしましたが、増分は84,920票しかありません。エンフボルド候補が逆転勝利を収めるには、初回投票でのガンバータル候補への投票を取り込むのが絶対条件だったのですが、それすらできなかったことになります。この点から見ても、バトトルガ候補が勝ったの評価はできないわけで、むしろエンフボルド候補の負け方が目立っています。

 他方、白票は80,765票の増加です。あと少しで選挙結果に影響したのは先程書いた通りです。とはいえ、ガンバータル氏が白票投票を呼びかけたにもかかわらず、応じたのは初回投票での投票者のうち20%に僅かに届かない程度だったことも注目されます。

 そして、先述の通り最も多かったのが第4のパターン「投票に行かない」です。初回投票と2回目投票とで、投票者の数は151,164人減少しました。ガンバータル候補への投票の37%程度となる値です。圧倒的に多いとは到底言えませんが、他のパターンと比べれば目立つとは言えるでしょう。

 では、この結果をどう見るべきか?まず、白票運動は成功しなかったと判断すべきでしょう。あと一歩まで行ったとは思いますが、初回投票でガンバータル氏に投票した人が、2回目投票で二大政党の候補に投票するのを阻止することはできず、やり直し選挙を実現できなかったことは認めなければいけません。そして次の大規模な選挙は2020年までありません。それまでの間、運動として存在感を示す場所はないに等しいだけに、今の規模を維持することは困難です。もちろん、選挙前に情勢が変わればまた盛り返すこともあるでしょうが。

 また、ガンバータル氏の呼びかけに応えた人の割合から考えれば、ガンバータル氏や人民革命党そのものへの支持も意外と小さかったと言えそうです。むしろ、初回投票での票のほとんどは二大政党への批判票だったと見られます。そして、初回はガンバ―タル氏、2回目投票ではどちらかの候補に投票した人が4割を超えることから、二大政党への批判といっても、程度としては決して強くはないものと思われます。

 まとめると、モンゴルでは人民党・民主党の二大政党のどちらも支持しない人々が一定程度存在しており、今回の大統領選挙の初回投票は、そのような存在が無視できないことを示しました。エンフボルド候補はそれらの人々の存在によって勝機を失ったと言うべきかも知れません。

 しかし、それらの人々の中に二大政党の「アンチ」は少なく、単に二大政党を支持したくないだけ(2回目投票のパターン(4)を採った人)や、時と場合によっては両党の候補いずれかを支持する人(2回目投票のパターン(1)またおは(2)を採った人)がむしろ多く、二大政党のどちらでもない第三極の積極的支持者としてまとまっているとは言えないのが現状のようです。加えて、現在の国政選挙の制度を考えれば、余程のことがない限り、モンゴルで第三極が政治を左右するのは当面難しそうです。

 ここから新大統領への選出が確実となったバトトルガ候補と、今後の見通しについても考えてみたかったのですが、長くなってしまったので、稿を改めて。

*1:もちろん、他のパターンもあり得ないではないのですが、考慮に値するほどの数で生じるとは思えません。例えば、初回投票でバトトルガ候補に投票した人が2回目投票でエンフボルド候補に投票した、あるいは真逆の投票行動はごくごく稀にしか生じないはずです。