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人には添うてみよ、馬には乗ってみよ、酒には酔うてみよ。

【モンゴル大統領選挙2017】混沌の中、本日公開討論会開催予定

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 モンゴル大統領選挙の情勢がさらに混沌としてきました。3人の候補いずれも初回投票で過半数を取れない可能性に加え、選挙成立も少々怪しくなっている状況です。

 

 簡単におさらいしておきますと、今回立候補しているのはエンフボルド候補(人民党)、バトトルガ候補(民主党)、ガンバータル候補(人民革命党)の3人。エンフボルド・バトトルガ両候補が二大政党から立候補し、ガンバータル候補は第三極という位置づけです。

 これまでも、モンゴルでは国政選挙のたびに候補者に対するネガティブなうわさが飛び交うことはありました。うわさはうわさであって、真偽のほどは確かめようがないですし、左右されるのもどうかと思うのでいちいち覚えてはいませんが、腐敗に関するものや外国人の血が入っているというもの(これがネガキャンに使えるという感覚が凄いですが、余所様のことをとやかく言える筋でもないですね)を見聞きしたような記憶はあります。

 ところが、今回は3人それぞれうわさレベルでは済まない話が出てきています。といっても現時点で真偽が明らかでない話もありますし、それらはあくまで「疑惑」として捉えるべきですが、いずれも候補者のイメージや大統領選挙の帰結を左右しかねないものです。

 まずエンフボルド候補については現地で「600億トゥグルグ」(トゥグルグはモンゴルの通貨。600億トゥグルグは約28億円)と呼ばれる疑惑が再燃しています。もともとは昨年の国会総選挙前に持ち上がった疑惑で、エンフボルド候補と人民党の関係者が政府高官の地位をあっせんすることで600億トゥグルグの資金を調達する計画を立てたとされる会合の録音が公開されたというものです。総選挙の結果は人民党の大勝、エンフボルド候補が国会議長に就任することになったのですが、最近になって録音を残した人物が警察に拘束されたことで野党側が反発、一方の人民党は疑惑そのものを否定して対立しています。この件では訴訟も起きていますが、これまで審判は延期を繰り返しています(この件は事実関係を整理しきれていないのですが、まずは現時点で調べられた限りを簡単にまとめました)。

 バトトルガ候補はオフショア口座に関して批判が起きています。いわゆる「パナマ文書」については日本でも一時期報じられましたが、一連の文書ではモンゴルのオフショア口座利用者の名前も掲載されていて、バトトルガ候補もその中に入っています。昨日は国会内反オフショア議員団が記者会見を開き、バトトルガ候補がオフショア口座内の資金をモンゴルに戻すよう要求しています。

 

www.montsame.mn

 

 ガンバータル候補にも金銭絡みの疑惑が出てきました。同候補が韓国国籍の人物から5000万ウォンの資金提供を受ける話をしているとの動画が拡散され、資金提供側がこれを認めたという事件です*1。事実であれば個人からの選挙資金提供の上限、さらに外国人からの選挙資金提供禁止を定めた選挙法に違反するため、警察庁が捜査を開始、本稿執筆時点で事件は地区裁判所(首都各地区に設けられた裁判所。日本の地方裁判所に相当)の審判に送付されています。ただしガンバータル候補が起訴されていたり、身柄の拘束を受けているわけではなく、大統領選挙まで日がないという事情もあり、立候補も取り消されていません。

 これ以外にも疑惑や悪いうわさはありますが、それらを逐一取り上げるのは真意ではないので、このぐらいにしておきましょう。むしろ気になるのは、3候補いずれも金銭に関わる問題が出てきて、司法・立法が動く事態になっていることで、モンゴル国民の中に「投票したい候補がいない」「選べない」という声が広がっていくのでは、ということです。現地報道は選挙キャンペーンや疑惑に関するものがほとんどで、そのような声を拾うのは困難なのですが、外国の報道や研究者による現地取材からは、棄権を決めた有権者の声や選挙キャンペーンの盛り上がりの低さが伺えます。

 モンゴル国民の大統領選挙への関心が薄まると、投票率低下や抗議の白票・無効票増加につながる可能性も出てきます。モンゴルの選挙法では、有権者のうち50%以上が投票しなかった選挙区では追加投票が行われるとされています。大統領選挙は全国一律に行うので、「選挙区」というのは本来は存在しませんから、仮に全国の投票率が50%を下回るとしたら、追加選挙を行わなければ選挙が成立しなくなります。

 また、白票が増えると、いずれの候補にとっても過半数の票を得るのは難しくなります。既に書きましたが、モンゴルの憲法・選挙法では、大統領選挙は2段階で行うとされており、初回投票で有効票の過半数の票を獲得した候補がいなかった場合、上位2候補が第2段階に進むことになっています。また、第2段階の選挙で投票者の過半数の票を獲得した候補がいなかった場合、選挙は無効となり再選挙が行われることになります。ここで、有効票には白票が含まれ、無効票(定められた以外の記入があった票)は当然含まれません。無効票が増えた場合はまだしも、白票が増えると、それだけ第2段階や再選挙の可能性が高まるのです*2 。

 そこまでいかずとも、投票率が低くなれば、自分を支持してくれそうな人が本当に投票までしてくれる可能性も低くなりますし、候補者にとって基本的に好ましい事態ではありません。もちろん、組織票が見込める候補であれば、投票率が下がった方が有利になる可能性も十分あります。最新の世論調査「ポリトバロメートル」では、人民党・民主党人民革命党の支持者のうち、昨年の総選挙から支持政党を変えた人は10%程度しかいませんが、一方で支持政党が「分からない」とした回答者は全体の3割、回答しなかった回答者も1割います。この4割が投票しなければ、最も固い支持層を持つ候補者が有利となりそうです。

 このような疑惑が多発する上、昨日はガンバータル候補の自宅に正体不明の封筒が送りつけられる騒ぎまで起きるなど、大統領選挙は混沌としているようです。そのような中で、公開討論会が今日(24日)21時から行われるそうです。

 

news.gogo.mn

 

 本来はもっと前に行われるはずが延期されたものですし、まずは今度こそ確実に開催される必要があります。また、討論会が中傷合戦の場に終わることなく、大統領が半大統領制の下、権限の範囲でどれだけのことが実現できるかを議論する場になることを希望します。私はモンゴル国民ではありませんが、モンゴルに関わる者として、このぐらいは希望したいものです。

*1:資金提供側の氏名が当初の報道と異なる気がするのですが、ひとまず置いておきます。また、現地報道では今のところ確認できていませんが、当該人物を通じて特定の宗教団体から資金提供を受けたとする外国報道もあります。

*2:ちなみに、この辺は"Mongolia Focus"の下記エントリも参照していますので、英語ができる方はこちらもお読みください。

■ Blank Ballots as Protest | Mongolia Focus