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「地域」研究者にして大学教員がお届けする「地域」のいろんなモノゴトや研究(?)もろもろ。

2016年モンゴル国会総選挙、結果(6月30日9時頃発表)ミニ情報と今後の課題

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 モンゴル国選挙中央委員会が昨日(6月30日)9時頃に国会総選挙の最終結果を発表しました。昨日深夜の時点とは議席数に若干の変動こそあれ、人民党の地滑り的勝利は変わりません。今回はその結果を確認した上で、今後のモンゴル国内政治の課題について考えてみます。

 

 さて、先程選挙中央委員会が発表したと書いたのですが、肝心の委員会のウェブサイトには、私が調べた限り、本エントリ執筆時点で選挙結果に関する情報はアップされていません。ですので、今回は(前回もですが)モンゴルの通信社のウェブサイトやニュースサイトに基づいて執筆しています。

 

1. 全国投票率72.1%、前回より上昇

 選挙中央委員会が発表した全国の投票者数は約191万人、投票率は72.1%でした。ウランバートルでは投票率68%、地方各県では75.5%で、都市よりも地方で投票率が高いのはどこぞの国と似たようなものかも知れません。ただし、全国投票率は2012年の国会総選挙の67.3%、2013年大統領選挙の66.5%から大きく上昇しています(モンゴル国選挙中央委員会ウェブサイト、現地報道より)。

 

2. 獲得議席数(中間集計):人民党65、民主党9、人民革命党1、無所属1

 昨日のエントリを執筆した時点から、人民党がさらに議席数を増やし、民主党が減らしました。人民革命党と無所属候補議席数はそのまま、他の政党・同盟も議席ゼロなのは同じです。

 ですので、大筋としては昨日のエントリから変わらない、というかさらに程度が増したことになります。というわけですので、選挙前後の議席の変化については、そちらを参照してください。

 

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 ただし、選挙中央委員会は「最終結果を発表」と言いながら、各選挙区の開票結果について、なおも「中間集計」としています。この辺はよく分からないのですが、開票結果の検証に加え、当選者に選挙法違反がないかどうかなどの照会が必要なのかも知れません。事実、2012年選挙では一部候補者が選挙法違反で当選取り消しになっています。もっとも、30日18時時点では選挙結果に間違いはないとの選挙委員会の発表が出ています。今後結果に何らかの修正があったとしても、大勢に影響があるとは思えません。

 

3. 各県議会選挙でもモンゴル人民党勝利、民主党敗北。県知事もすべて人民党議員から選出か

 昨日のエントリでは首都議会選挙の結果をご紹介しましたが、今回の国会総選挙では合わせて各県の議会選挙も行われています。本エントリ執筆時点では、結果の一部のみ示されているものも含め、21県中17県の議会選挙の結果が報道されています。そして、その全てでモンゴル人民党が過半数を獲得、民主党が敗れています。人民党の議席割合に程度差はありますが、勝敗の違いは明確です。

 ちなみに、モンゴルでは地方政府の首長は直接選挙ではなく、議会内での互選で選ばれた後、首相の承認を得ることになっています。県・首都議会の選挙では人民党が多数派、中央政府も人民党単独政権となるでしょうから、よほどのことが無ければ、既に選挙結果の出た各県・首都の知事も人民党の議員から選出されることになる見込みです。

 なお、今回国政および県・首都議会選挙で勝利した人民党については、過去のエントリも合わせてお読みください。

 

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4. 女性議員過去最多の13名、新人議員11名?

 報道によれば、今回当選した議員のうち女性議員は13名。これは国家大会議成立後最も多いということです(社会主義時代の国会は女性議員がさらに多く割り当てられていましたが、あくまで当時の国会の話です)。うち人民党からの立候補者が12名、民主党からは1名となっています。

 また、今回初当選した議員の数は11名という複数の報道があります。それらでは顔写真つきのリストが掲載されているのですが、別の報道では40名という全く異なる数字もあります。なんのこっちゃと思うのですが、この40名には前職・元職が含まれているのかも知れません。

 

5. 暴動の懸念は杞憂に終わる?

 念のため疑問符を付けましたが、今回の選挙結果に対する暴力的な反応の可能性は昨日でほぼなくなったと思います。というのも、民主党エンフボルド党首が選挙結果の受け入れを表明したこと、また憶測ですが、2008年とは異なり現政権への懲罰的な結果が出たことで、おそらく有権者の溜飲を下げることになったであろうことが考えられます。

 もっとも、突如として二大政党有利な制度下での選挙戦を強いられた中小政党・同盟の不満は残るかも知れません。特に気になるのが、議席を激減させた人民革命党の動きです。とはいえ、人民革命党支持者の怒りの矛先が、選挙自体よりも党を迷走させたエンフバヤル党首以下の指導部に向かうことも十分考えられます。小規模な抗議活動が起こり得るとしても、それが暴徒化することはもはや非常に考えにくくなりました。

 

6. 経済再建、債務問題回避を迫られる新政権

  選挙結果がほぼ固まったことで、今後は首相の任命と新政権への移行が焦点となります。現大統領が民主党出身なので、大統領府と内閣とのねじれが生じますが、国会の議席の3分の2を人民党が取っているので、大統領府の権限は大幅に縮小されることになりますから、新内閣の自由度は前政権よりも確実に大きくなります。

 一方で、新政権が直面する課題は深刻です。落ち込んだ経済成長を回復させなければなりません。加えて、外債の償還も迫ります。有効な解決策は外国投資の呼び込みでしょうが、外国(特に中国)資本への警戒感が強い中で、それがどこまで可能かは疑問です。

 また、党公約で社会保障の充実と財政の健全化を全面に出してしまっただけに、この難題の両立も求められます。ただし、経済再建ができず、債務危機に陥ってしまえば、その時点でさらなる緊縮財政が優先されることになります。新政権に与えられた時間は、国会の任期4年よりもはるかに短いかも知れません。

 ちなみに、人民党の公約についてはこちら。

  

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7. 民主党建て直しへの遠い道のり

 党創立以来の大敗北を喫した民主党。現執行部の辞任は必至として、新たな執行部は党勢の建て直しを急がなければなりません。

 ですが、問題は党内の派閥対立です。2012年総選挙からの4年間は民主党内の派閥による争いが表面化した4年間でもありました。派閥対立はアルタンホヤグ前首相解任の要因の1つにもなりましたし、党の幹部会が開けないなど、エンフボルド党首の党運営にも水を差しました。

 このような状況を打破し、党を再び団結させられる人物が求められますが、党内人事をめぐって再び対立が繰り広げられる懸念もあります。ただ、翌年には大統領選挙が控えています。エルベグドルジ大統領は2期目となっており、憲法上次の選挙には立候補できません。新たな候補をどう擁立するのか、その下で一致して戦えるのか。民主党に許された時間は、人民党新政権よりも少なそうです。

 

8. ガンバータル旋風ならず、大統領選挙出馬も黄色信号

 二大政党以外の勢力については、5.でも触れた人民革命党支持者の怒りの矛先がどこに向かうかが焦点の1つになりそうです。その一方で注目されるのが、愛国者統一同盟から立候補していたガンバータル候補の落選です。

 以前にも述べましたが、ガンバータル候補世論調査で見る限り、国民の間の任期は高く、当選の可能性も十分ありました。その場合、議席を足掛かりに大統領選挙出馬も視野に入っていたはずですし、以前に本人が出馬の意図を明らかにしたこともあります。

 ただ、結果は落選。労働国民党の内紛や、総選挙出馬までの紆余曲折から敬遠されるようになったのかも知れません。今後氏が大統領選挙に立候補しようとすれば、国会に議席を有する人民党、民主党人民革命党のいずれかに所属しなければなりませんが、その中で候補者の地位を獲得するのは容易とは思えません。昨年暮れには台風の目となることが確実視されていたガンバータル氏ですが、わずか半年で状況は暗転してしまいました。

 

9. 対日本関係自体は大幅な変化なし、しかし「窓口」変更には要注意!

 最後に、日本にとって気になるのは、モンゴルと日本との関係がどう変化するかでしょう。この辺もまた以前書いたエントリのほぼ繰り返しになってしまいますが、あらためて述べておきます。ちなみに、そのエントリを下に貼っておきます。

 

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 結論を先に言えば、モンゴル政府の日本に対する姿勢が変わるとは思えません。モンゴルにとって「第三の隣国」たる日本の位置づけは、二大政党の間で変わるものではないですし、モンゴルは引き続き、日本・モンゴルのお互いに対する良好な感情とEPAをてこに、経済関係拡大を図ろうとするでしょう。

 しかし、日本側が注意すべきは政府省庁の改造、それに伴う人事の刷新です。過去の総選挙から考えても、民主党下で編成された現在の省庁は、まず間違いなく再編されるでしょう。また、幹部人事も人民党にとって有利なものに変わることが予想されます。現在モンゴル政府と交渉している人々・組織は、このような変化に備える必要があります。最悪の場合、交渉を一からやり直しという事態も十分あり得ます。日本に対する姿勢自体はとにかく、「窓口」の変更は覚悟しなければなりません。

 

 とにもかくにも選挙は終わりました。各政党はそれぞれ重い課題を背負いましたが、モンゴル国自体が経済を中心とする喫緊の課題に面しています。新たな国会、内閣がそれらをどう解決するのか。日本からも注視、支援が求められます。