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2016モンゴル国会総選挙一口メモ(9)二大政党公約集の簡単な比較

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 総選挙まで残り1週間を切りました。情勢はまだ分かりませんが、民主党モンゴル人民党の二大政党のどちらかが政権に入ることは間違いないでしょう(大連立の可能性も無視できませんが)。そこで、今回は両党の選挙公約を、ごくごく簡単にですが、比較してみたいと思います。

 

 

 

 こちらが民主党の公約。

www.demparty.mn


 

 こちらがモンゴル人民党の公約です。

www.nam.mn

 

 日本だとマニフェストという言葉が既に定着した感はありますが、モンゴルの政党が出す公約はそんな簡素なものではなく、冊子になるぐらいのボリュームがあります。そのため、その全てを訳出する余裕はありませんので、あくまでかいつまんでご紹介します。

1. 民主党公約「モンゴル人-2020」

 民主党の公約は「モンゴル人-2020」というタイトルがついています。次の選挙で選ばれる議員の任期が2020年までなので、その4年間にこれだけのことをやります、という主張です。公約は大きく5つに分かれていて、それぞれ「仕事と所得のあるモンゴル人」「健康で快適なモンゴル人計画」「知識と教育のあるモンゴル人」「安全な環境が保証されたモンゴル人」「自由なモンゴル人」というタイトルがつけられています。

 そして、それぞれの見出しごとに見ていくと、「仕事と所得のあるモンゴル人」は経済、工業、鉱業、食料・農牧業、労働、道路・運輸、エネルギー、建築・都市計画、人口開発・社会保障がトピックとなっています。一部に中黒「・」でくっついたものがありますが、これは現在の省庁の構成を反映しているようです(もっとも、モンゴルでは選挙のたびに省庁の構成が変わるので、民主党の考え方が省庁の構成に反映されている、というべきかも知れませんが)。

 また、「健康で快適なモンゴル人計画」のトピックは保健のみですが、その中に長生きするモンゴル人、健康に生きる習慣と刷新、保健分野の専門的かつ持続的なガバナンス、保健分野の効率的なファイナンス、電子病院、貴重な専門家という小見出しが並んでいます。続いて「知識と教育のあるモンゴル人」のトピックは教育で、中は教育、科学、文化部門に分かれています。そして、「安全な環境が保証されたモンゴル人」では国防、観光・環境、対外関係、「自由なモンゴル人」では法体制が、それぞれトピックになっています。

 

2. モンゴル人民党公約

  一方、モンゴル人民党の公約にはタイトルがありませんが、選挙キャンペーンのスローガンに合わせて「われわれはともに」(Бид хамтдаа)というのがキーワードになっています。こちらは冒頭に、自分たちが国民生活・経済・政治の危機を解決し、平等で豊かなモンゴルを打ち立てるという訴えを掲げた上で、社会政策、経済政策、環境・グリーン開発、ガバナンスの方針、首都開発、県・地方のそれぞれに分けて、さまざまな公約について述べています。

 このうち「社会政策」では、健康で幸福な母子、子どもに適した学習環境、授業料の重圧がなく、卒業すれば仕事がある学生・若者、仕事と所得があって強固な家族、国家・公的扶助のある高齢者や対象集団、在外モンゴル人、国民に適した保健・スポーツ、文化・科学・ITというサブトピックが、「経済政策」では、混乱を克服する「特別条件」方策、責任と透明性があり節約した予算、適切で監査を受けた金融政策、鉱業開発、開発の支援者たる社会基盤、輸入国家から輸出国家へ、民間部門・雇用、農耕・環境に優しい食料、モンゴルの牧民というサブトピックが、それぞれ掲げられています。

 続く「環境・グリーン開発」のサブトピックは、人間の保健と環境に適したグリーン開発、エコシステムと原生地域の持続性、環境保護への広範な参画、観光という文化の架け橋、さらに「ガバナンスの方針」は、法秩序の整備された国家、持続的で責任あるガバナンス、国民に近い行政サービス、従属性のない公正な司法組織、国民の権利と自由、国防政策、対外政策というサブトピックに分かれています。

 さらに、人民党の公約は首都・県レベルの地方行政に関するものも含んでいます。このうち「首都開発」では都市整備・社会基盤、住居取得に適した条件、健康的・清潔で安全な周辺環境、サービスが迅速なウランバートルがサブトピックとなっていて、その後に「県・地方」として、各県に関する公約がまとめられています。

 

3. 経済から始める民主党社会政策から始める人民党

 ここまで両党の公約を簡単に見てきましたが、問題は、はたしてこの2つにどういう違いがあるかです。ただし、両党の間にイデオロギーや政治路線上の対立がさほどあるとは言い難く、公約の間にも本質的な違いがあるかも疑問です。とはいえ、まったく同じというわけはないので、とりあえず目についたところを述べておきます。

 まず注目されるのが、民主党の公約が経済政策に関するものから始まり、人民党のものでは社会政策に関するものが冒頭に掲げられている点です。重要な公約、有権者の目に触れてほしい公約ほど前の方に置くと仮定すれば(個人的には不合理な仮定とは思ってません)、このような違いが両党の重点分野の差を反映している可能性は高いでしょう。もっとも、民主党が成長優先、人民党が分配優先と断定するのは早計ですし、特に人民党に関しては、国民生活の問題を訴えることで政権与党を攻撃するという面もあるとは思うので、多少の留保は必要ですが。

 

4. 未来志向を打ち出す民主党、現状批判を全面に押し出す人民党

 詳しくは『アジア動向年報』収録の拙稿「モンゴル」をご一読いただきたいのですがと臆面もなく宣伝しますが、モンゴルの経済成長率は2014年以降一ケタ台にとどまり、外国投資も激減しています。また外貨建て国債「チンギス債」の償還も控えています。

 人民党からすればこれは大きな攻撃材料です。先程も書きましたが、公約の冒頭では国民生活・経済・政治の危機を訴えていますし、各トピックでも、冒頭に「現状」として、モンゴルの状況を危機的ものとして描いた文章を掲げています。その上で、「われわれはこうして解決する」という見出しを置き、自党の公約で現状を打破する、とアピールする展開をとっています。

 一方の民主党は公約で4年間の成果を宣伝するでもなく、2020年、さらには2030年という未来を見据えた公約を並べています。国会の任期4年間の公約ですから、任期間に達成すべき事柄のみに内容を絞り、それ以外は触れないというのも1つの選択ではあります。とはいえ、上で述べた経済状況を考えれば、民主党の防戦感は否めません。

 

5. 対外政策:経済重視の民主党、現状批判の多い人民党

  対外政策は両党ともあまり力を入れていないのか、公約集でも後ろの方に置かれています。とはいえ、ここまで見てきた両党の違いはここでも顔を出しています。

 まず、民主党は輸出や経済関係拡大に関する記述が目立ちます。とりわけ、経済関係拡大ではロシア・中国との経済回廊計画の実施に加え、対日本関係ではEPAに基づく労働力交換、日本の大企業によるモンゴル支社の設立、モンゴルの天然資源を日本の技術で加工生産するための工場建設などを掲げている点は注目されます。また、在外モンゴル人の居留中および帰国後の生活条件の改善にも触れられています。

 一方の人民党は、自らが政権与党だった時期と現状を比較し、モンゴルの対外的地位が大きく落ち込んだと批判した上で、公約を並べています。ただ、現状批判が17行にわたる一方で、公約自体は全部で7項目、見出しを入れても12行です。内容も個別具体的なものはなく、むしろ現状および民主党政権批判が目立っています。

 

 ここまで両党の公約を比較してきましたが、一方で輸出拡大重視、輸送インフラ整備など、重なる部分も少なくありません。

 また、公約はあくまで「何をするか」をまとめたものであって、「どう実現するか」は書かれていません。もちろん、目標が達成されれば手段はある程度自由であるべきですから、今のうちから限定して示す必要はありません。ただ、何より、地理的条件や経済状態など、モンゴルの置かれた状況を考えれば、政策面で取り得る選択肢は限られますし、現実に実現可能な公約もまた限られるでしょう。

 両党をはじめ、各党の公約のうち、どれだけが実現可能で、どれだけが「空手形」なのかは分かりません。ただ、選挙戦では公約の実現可能性についてもきちんと示してほしいとは思います。って言った言葉が即刻日本の参議院選挙に返ってくるのですが(苦笑)

 

 以下、過去のエントリです。

3710920269.hatenablog.jp

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