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「地域」研究者にして大学教員がお届けする「地域」のいろんなモノゴトや研究(?)もろもろ。

2015冬・北からの帰還(3)大雪の札幌近郊を一周

 市電乗車は済みましたが、札幌を出る予定の時間まで8時間ぐらい残っています。18きっぷも使わなければ勿体無いので、JRで札幌近郊を回ってみることにしました。

 

 

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 岩見沢行の普通列車。最後尾に吹きつけられた雪が残っています。

 暖冬とはいえ真冬の北海道。札幌市内を出た辺りから日が陰って雪が降り出すと、さらに進むにつれて吹雪模様になっていきます。雪の上に雪が積もり、風景がモノクロームになったところで、終点の岩見沢に着きました。

 

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 文字通り雪の中の岩見沢駅。手前のホームに電車が停まったのですが、辛うじて二本の軌跡が見えるだけです。

 

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 道産子の像も吹雪に耐えています。開拓民と馬の辛苦を物語っています。

 

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 岩見沢の駅舎。赤煉瓦と灯りが、雪色に埋もれ行く風景の中に浮かんでいます。ただ私はというと、このまま佇んでいれば埋もれてしまいそうなので、早々に駅の中に戻ります。

 

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 岩見沢からは室蘭本線で苫小牧を目指します。ホームにはその苫小牧からのディーゼルカーが到着しました。厳寒の中を走って来ただけに、正面のガラス以外は雪で覆われています。

 

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 先程の車両が折り返すのかと思いきや、苫小牧行のホームには別の車両が入ってきました。こちらは前面の雪が払いのけられたようで、ほとんど残っていません。

 

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 と思いきや、反対側はこの状態。車両基地から走って来たばかりだと思うのですが、すでに真っ白です。これからこちら側が先頭になるので、ワイパーのあるところだけは雪が払われるのでしょうが。

 しかし、我ながらこんな中を列車に乗るのは酔狂なものだとは思います。これでもトラブルがあって札幌に戻れないリスクが低くなるよう路線を選んだつもりですが、わざわざ寒い中を走る列車に乗りに行っている訳ですし。しかも、既に乗ったことのある路線(これで3度目です)に、特に何の目的もなく、ただ乗るだけですし。

 この辺は、使わないと18きっぷが使い損になるという理由も勿論あります。ただそれだけではなくて、寒い土地は寒い時期に見ておかないと分からない、という妙なこだわりもあったりします。

 社会科学の分析をやっていると、大きなものなら社会・経済・政治の仕組み、細かなものなら人間の行動や意識、何よりそれらを動かす要因に関心が向きます。ただそのような要因として考慮されるのは、人や組織といった単位が持つ特性や、それらが合わさって集合的にできた意識なり文化だったりすることが多いようです。例えば人なら、性別や年代・世代、受けてきた教育や就いている(きた)職業、社会階層等が挙げられます(教育・職業・社会階層等は、それら自体への要因に関心が持たれることもあります)。一方で、人々が置かれている自然環境が注目を浴びることはあまりないようだ、というのが私のこれまでの感想です。

 この感想が正しいとして、理由も一応は思いつきます。自然環境、とりわけ気候による影響というのは、分かるようで分からない代物です。暑さ寒さが人々や社会・経済・政治や文化に対して、これこれこういうように影響を与えているというのは、口で言うのは簡単です。ですが、その理屈が正しいのかどうか、客観的な検証をどうすれば良いか、と言われると、きわめて難しい。つまり、「分かったようなことを言う」というレベルで止まってしまうのです。それは社会科学者に限らず、科学者にとって避けるべきものです。

 また、自然環境、特に気候は人間にとって外部から与えられるもので、上で挙げたような要因と比べれば、人間が意識して制御できる部分がきわめて限られています。その意味では、分かったところでどうしようもないものではあります。

 ですが……地域研究者、という私のもう1つの名乗りからすれば、その地域の気候、風土を考慮しないのに、地域が理解できるだろうか、という思いはあります。特に、私の場合はモンゴルという酷寒の地を相手にしているわけです。ですから、そこに生きる人々の意識・行動等、それらの中で生まれた社会・文化等の仕組みをを理解するには、「寒さ」への理解が欠けてはならないと思うのです。

 しかも、ただ寒いだけではなくて、その場にいるだけで生命の危険を感じるほどの寒さを、できる限り体感的に理解しておかなければ、とは、最近とみに思うようになりました。寒くて大変、風邪をひきそう、ではなく、これは凍え死んでしまう、ぐらいの感覚を忘れては、研究者としての勘も失われやしないかという意識を持っています。とはいえ、冬のモンゴルにそう簡単に行くわけにもいきませんし、最近は上手い具合に旅行の予定が立てられたり入ってきたりするので、冬ごとに国内外の寒地に赴き、歩き、車窓を眺め、人々と話すのです。

 そんな小難しいことを言っている間に、列車は灰色に近い白の風景を走り切り、苫小牧に到着。駅で待っていたのは、

 

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 ホッキがホッキ(ケ)ー……

 ……雪ミク電車運休とは別の意味で、全身の力が抜けるのを感じます。

 ちなみに調べてみると、このキャラクターは苫小牧市の「ホッキー君」とのこと。さらに周囲の"HP"とはHokki Powerの略だとか。"TESS"というのは分かりませんが、これ以上調べたら札幌に戻る体力を奪われそうなので止めておきます。

 

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 気を取り直して、乗り場に向かう途中には、まだクリスマスの飾りが残っていました。といっても、クリスマスが12月25日とは限らないんですけどね。

 

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 札幌行の普通電車。奥の青いディーゼルカーは、苫小牧から別れる日高本線のものですが、現在ほとんどの区間が災害運休中。多額の費用と、復旧しても利用者が少ないことから、復旧の目途は立っていません。復旧したとて、道内各地で減便や駅の廃止が相次ぐ中、以前通りの運転はきわめて難しいでしょう。

 新幹線の延伸が騒がれる中で、北海道各地の日常の足は、少しずつ衰えていっています。

 

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 さて、苫小牧を出た普通は札幌手前、北広島までやって来るとしばらく停車し、新千歳空港からの快速電車に追い抜かれます。

 ここでやってきたのは札幌まで快速エアポート、札幌から旭川までは特急スーパーカムイに化ける電車です。ただこの日はダイヤの乱れで旭川直通がなくなったはずなのですが、電車だけは特急用のものです。

 18きっぷで特急電車に乗れる。これだけ書くと良さげな感じですが、実のところ特急電車だとドアの数も少なければ乗り降り口も狭いわけで、乗り降りには時間がかかります。それだけに快速電車のように、停車駅ごとに大量の乗客を素早く捌くのには向いておらず、ダイヤ遅延の元凶として一部には「カムイッポヨ」と蔑称される始末(どう蔑称なのかは分かりませんが)。私もエラいモノに出くわしたと思ってしまいました。

 とはいえ、快速エアポート旭川直通も来年3月のダイヤ改正までですし、既にダイヤは乱れに乱れているので今更どうなろうが関係なし。とりあえずは乗ってみることにしたところ、車内は満席、立席客も多く、特急型車両ならではの混みっぷりでした。

 

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 とはいえ、幸運なことに途中からは座れて札幌到着。快速運用が無くなる前に良い経験ができました。と書くと、千歳線住民の方々に怒られそうですが……