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人には添うてみよ、馬には乗ってみよ、酒には酔うてみよ。

モンゴル学会2015年度春季大会に行ってきました

けんきう モ国

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 5月15日(土)に新潟大学サテライトキャンパス「ときめいと」で行われた日本モンゴル学会2015年度春季大会に行ってきました。

 モンゴル学会の大会は年2回、春は東日本、秋は西日本でそれぞれ開催されています。 意外に思われるかも知れませんが、モンゴル研究者は全国に散らばっているので、首都圏・関西以外で開催されることもままあります。

 となると大変なのが開催地までの道のりです。高知龍馬空港からは羽田・伊丹・福岡・小牧行きの便しかないので、それ以外は乗り継ぎが必要になります。特に今回は初めての土佐脱藩で、関西にいた時とは違い、まして慣れないせいもあってルート探しには手間がかかりました。国内でこれですから、個人的にはモンゴル行きのルートをどうするのか、今からあれこれ考えあぐねていたりします。

 ちなみに今回は伊丹乗り継ぎ、幸い会場が新潟駅前のサテライトキャンパスだったので、空港からは直行できました。

 さて、今回の研究報告です。タイトルについては下記リンク先に示されていますので、そちらをご覧ください。

 

www.ja-ms.org

 

 ただしスマホからだとプラグインが読み込めないと思いますので(実際私の機材では読めませんでした)、その場合は下からPDFを直接ダウンロードしてください。

http://www.ja-ms.org/img/conference_2015a.pdf

 

 モンゴル学会は大きな学会ではないので、分科会はなく、全員が1ヶ所で研究報告を聞く形になります。例年なら報告が5, 6件行われた後で招待講演があるのですが、前年の秋季大会に続いて今回も講演はありませんでした。報告件数が増えたせいかも知れません。

 で、肝心の内容ですが、タイトルからも伺えるように、歴史学・人類学・建築学言語学・文学と多岐にわたります。歴史研究に関しても、対象となる時代は有史以前から20世紀初頭まで異なるわけで、「モンゴル」というキー・ワードを共有する多様な分野の研究に出会うことになります。もっとも、この辺は本学会が以前から持っている特色ではありますが。

 また、今回は試論的な報告が目立った印象を受けました。研究報告ですから、完成した研究を世に出す(はずの)論文とは異なり、進行中の研究について紹介するものが多いのは当然と言えば当然ですが、今回は大胆な仮説・新説を提出するものが私の目を引きました。といっても思い付きレベルの珍説ではなくて、新たに発見されたものも含め、さまざまな資料を検討し、それらを根拠に、なお残る謎に対して回答を試みる取り組みが見られた、ということです。第2報告や第7報告がその典型と言えるでしょう*1

 それらを踏まえた上で、あえて1つ選ぶとすれば第4報告、劉迎春(Tselen)氏の「カラチン王妃を通じてみる『毓正女学堂』―日露戦争から辛亥革命期まで―」となるかと思います。カラチン王妃善坤は清朝末期に女子教育のための学校を開き、校長を務めた人物で、当時教師を務めた日本人河原操子の回想録等では親日的かつ教育熱心な人物として喧伝されていました。これに対し、本報告では別の日本人が当時記した見聞録を基に回想録の信憑性に疑問を投げかけるとともに、このような王妃像を否定、むしろ教育への関心も薄ければ日本・西洋も蔑視する、清朝至上主義から抜け出せない守旧的な人物として王妃を描いています。

 見聞録への批判的検討に若干疑問が残ったのと、(従来のイメージを否定しようとするゆえかも知れませんが)史料に対して議論が踏み込み過ぎている感はありましたが、一方的な議論に基づく「美談」に対して実証的に切り込んでいく姿勢は評価されるべきものです。そのような研究は、当時のモンゴル民族の女子教育や、それに対する(意図はどうあれ)日本からの協力がどのような意義を遺し得たのかを捉えなおすことにもつながるでしょう。この点で、今後の研究の発展が楽しみです。

 ほかにも、第1報告は現人類のユーラシア大陸拡散という大きなテーマに貢献し得るものですし、第2報告は鉄生産、第3報告は織物技術を手掛かりに、モンゴル高原における技術の継承や伝播に取り組むものであり、ユーラシアの東西交流が持つ影響力の大きさを再確認することができました。

 第5報告は南モンゴルでのシャーマンに関するもので、シャーマンの社会的位置づけに関する議論には弱さを感じましたが、研究の規模の大きさを窺い知ることはできました。第6報告はウランバートルのゲル地区における住居の実態調査の現況報告で、ゲル地区の増殖が喫緊の課題であるだけに、さらなる調査の進展が期待されます。

 第7報告は契丹語の研究なのですが、私が世界史を習った頃はほとんど謎の文字だった契丹文字が、最近ではだいぶ解読が進んでいるのだなぁという全然関係ない実感が湧きました(済みません)。第8報告はモンゴルに近代文学が確立するいわば前夜に生まれたさまざまなジャンルに焦点を当てたもので、モンゴル近代文学の成り立ちを考える上で重要なものと言えるでしょう。

 そういう感じで、今回は若手から重鎮に至るまでの意欲的な研究に触れることができたと思っています。次回は11月に大阪で開催予定、余程のことがなければ出席するつもりです。報告までできる自信はないですが(苦笑)

*1:ただし、この辺はあくまでも私の主観です。学会歴がもっと長い人からすれば、異なる印象があり得る点はお断りしておきます。