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「地域」研究者にして大学教員がお届けする「地域」のいろんなモノゴトや研究(?)もろもろ。

白鵬の「舌禍」事件、モンゴルのメディアはどう伝えているか

 初場所で33回目の幕内最高優勝を果たした白鵬ですが、その翌日に審判部を批判した発言が騒動を引き起こしています。本エントリの執筆時点で白鵬自身の対応は報じられていませんが、既に親方が理事会に謝罪する事態になっています。

  ここでは白鵬の発言自体の当否は問いません。むしろ私が気になっていたのは、この事件をモンゴルの人々がどう理解するかです。

 この件については昨日あたりからモンゴルの大手紙が報じはじめています。中でも、ウヌードゥル(モンゴル語で「今日」の意味)紙の記事はモンゴルの複数のニュースサイトに転載されており、多く読まれているものと思われます。そこで、今回はその記事をご紹介したいと思います。

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 「白鵬に注意を与える」

 日本の賜杯を33度獲得し、多くの人々を歓喜させた横綱白鵬は、たった一日後に批判の的に変わった。場所で優勝した力士は翌日朝に所属部屋で記者会見を行う慣習がある。宮城野部屋に集まった記者の前で、白鵬が語った言葉は相撲協会の指導者層の怒りに触れ、メディアの餌食になってしまった。33度目の優勝について話していた横綱は「心ががっかりしたことが1つだけあります。13日目に稀勢の里と取って勝った際に、審判団が同体と見て取り直しとの決定を下しました。家に帰って録画を見ると、明らかに私が勝っていました。子どもでも見れば理解できることなのに、審判団はなぜこんな風に間違えたのでしょうか?ビデオを慎重に調べたはずなのに、このような判定が出たことは本当に残念です。審判たちはすべて過去に相撲を取ってきた人たちなのに、あんまりです。このようなことが繰り返されないでほしいです。観客は取り直しにしようと大声を上げるでしょうが、正しく裁く必要があります。肌の色は関係ありませんし、髷や髪が違っていても、土俵の上に上がればすべて同じ日本なのです。私たちは全く同じ人なのです」といって、審判団を批判したのであった。審判団、とりわけその取り組みを裁いた親方たちはこのことを非常に遺憾に思ったのは理解できることである。「横綱の地位にふさわしくない」「国技を何だと思っているのか」という批判があり、北の湖理事長は今月29日の理事会に白鵬の師匠である宮城野親方を呼び、厳重に注意したことを明かした。相撲協会で審判を担当する親方たちは協会に対し、横綱白鵬を呼んで、経緯を説明するよう提案を行った。一部の親方は、なぜこのような発言をしたのか問いただすのではなく、白鵬に相撲の歴史、行司と審判の仕事についての講習を行おうと提案した。

 日本のメディアも場所が終わって以来、白鵬にはかなり批判的である。「相撲が荒い」「取り組みで勝った後でダメを押す」「懸賞を取るときに下唇を噛む」「横綱大鵬はこんな風ではなかった」などと、いろいろと細かい批判を加えている。白鵬の記者会見の後には100任を超える人々が電話で白鵬を批判した一方で、白鵬を支持する人は彼の公式ブログに支持の言葉を書き込んでいる。白鵬のブログには「白鵬はどんな日本人よりも日本の習慣を理解している」「白鵬、お前は真の侍だ」「恐れるな、私はお前とともにある」などと感想を書き込んでいる。ただ、宮城野親方は27日に「白鵬を私が呼んで注意を与えた。彼は申し訳ないと謝罪の言葉を述べていた」と記者たちに伝えていた。しかし、29日には師匠と弟子と二人で理事会に呼び出され、指導を受ける模様である。初場所で歴史的な成功をおさめた横綱白鵬が引退後に親方になり、部屋を興すためには日本人になる必要があると北の湖理事長は述べている。初場所後の祝勝会で宮城野親方は「白鵬は日本に帰化するのか」と尋ねられたところ「いずれは日本に帰化するでしょう。自分でそう考えているはずです」と答えた。ただ、息子の優勝を記念するために日本を訪れていたムンフバト・アブラガは、「今は国籍を変える時期ではない」と回答していた。

M. ソガル=エルデネ

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 白鵬をはじめ各氏の発言部分で、日本での報道とは異なる部分があるかも知れません。ですが、ここでは「モンゴルでどう報じられていたか」を伝えることが大事だと考え、調整はしていませんので、ご理解ください。

 ちなみに、元記事のリンクは下にあります。モンゴル語が分かる方がご確認して、もし翻訳に間違い等あればご連絡ください。

ХАКҮХОД АНХААРУУЛГА ӨГНӨ(Өнөөдөр, 29/I/2015)

http://mongolnews.mn/%D1%81%D0%BF%D0%BE%D1%80%D1%82/1gfn

 

 さて、私はこの記事を読んだ限り、比較的冷静に事実を伝えているという印象は受けました。その限りではよかったとは思っています。

 ですが、まだ心配がなくなったわけではありません。以前のいわゆる「朝青龍問題」で、モンゴルでは朝青龍に同情的なのはまだいいとして、朝青龍を擁護するデモが日本大使館前で行われたり、2010年の引退の際にはモンゴルの大手紙の1つが相撲報道のボイコットを宣言することまであったからです。

 しかも、2007年に朝青龍が出場停止処分を受けた際には、日本人は相撲に対する民族的な思い入れがあり、そのために外国人である朝青龍が優勝を重ねるのを阻もうとして、朝青龍に「品格」を要求している、という噂まで流れたことが報告されています(前川愛「『朝青龍問題』から現代のナショナリズムを読み解く」エコノミスト2007年10月16日号)。

 あくまでも私の憶測ですが、このような「誤解」はおそらく少数派でしょう。しかしながら、こういう「理解」が広まることはどう考えても日本や日本人にとってプラスではありません。外国・外国人に対する反感が暴力を引き起こすことは、近年のモンゴルにおいて決して珍しくないからです。

 また、先ほどの雑誌記事には日本大使館前でのデモの写真がありますが、そこで掲げられた横断幕には「人権侵害をしないで下さい」という言葉が日本語で書かれています。ですが、これは大方の日本人にとって、いくらなんでも言い掛かりだと思ってしまうことでしょう。今は良好なモンゴルと日本との関係ですが、こういう誤解が積み重なっても大丈夫か、という懸念はあります。

 それだけに、日本での今後の動きもそうですが、それらがモンゴルでどう報じられるのかも、注視しておきたいところです。