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「地域」研究者にして大学教員がお届けする「地域」のいろんなモノゴトや研究(?)もろもろ。

懐かしの?モンゴルのドリンクラベルコレクション

 院生時代、モンゴルで売られているドリンクのラベルを集めていた時期があります。先日帰省した際に、そのコレクション(ってほどでもないですが)を見つけたので、持って帰ってみました。今回はこちらをお見せしたいと思います。

 

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 こちらはモンゴルの高級ウォッカ「チンギス・ハーン」のラベル。今はガラス瓶に直接刻み込んでいますが、昔はそこまでの工業力が無かったのか、このようなラベルを貼っていたのです。

 ここでのポイントは、チンギス・ハーンの肖像の下にある黒い文字。光の加減で見えにくいですが、"IMPORTED FROM MONGOLIAN PEOPLE'S REPUBLIC"と書いてあります。 モンゴルで売っていたのに「輸入」とありますが、輸出用という体裁で作ったものを国内でも売っているという体裁でしょう。

 ただそれ以上にアレなのが「モンゴル人民共和国」となっているところです。これを入手したのは確か2000年前後、少なくとにモンゴルの国名が1992年に「モンゴル国」となってから後の話です。なのに旧国名を使っているのか!?という意外感はありますが、おそらく計画経済の時代にラベルをノルマ通り作ったら余ってしまったので、使い切ってしまおうということだと思われます。

 もっとも、最高級アルヒの「ボロル」(モンゴル語で水晶)に至っては、同じ時期に「食糧軽工業省」という社会主義時代の省庁の名前がラベルに書いていました。今となっては保存しておくべきだったと、残念に思ってます。

  ただ、私はむしろ瓶ジュースのラベル収集に関心がありました。当時はウランバートル市内各地にキオスクがあり、500ミリリットの瓶入り炭酸ジュースを100トゥグルク(日本円で10円弱)で売っていたのです。ジュースを買うと「瓶も買う?」と聞かれるのですが、基本は瓶ジュースはその場で飲んで瓶を返すことになっていて、返さない場合は瓶代も払う必要があるためです。私は瓶まで買った経験はありませんが。

 瓶ジュースと言っても日本のような洗練されたものではなく、瓶の首から胴にかけての曲線のところにラベルが貼ってあるだけ。業者によってデザインが違うなんてことはなく、どのジュースも同じ形の寸胴な瓶に入っています。ジュースの瓶というよりは、酢や調味料のガラス瓶を想像していただいた方が良いような気がします。その一方で、同じジュースで瓶の色を統一するという発想はなく、同じジュースでも瓶の色が違っていることは普通。瓶は何度も再利用しているせいか、ときには口の部分が欠けているのに出くわすこともありました。内容量も適当で、運が良ければ多めに入っていますし、悪ければ少なくなります。

 ですが、その適当さに逆に惹かれてしまったのか、モンゴル滞在中は寒い時期でもなければ、キオスクによってはジュースを飲んでいました。カネのない院生でもできる安上がりな趣味ではあります。ジュースのことをモンゴル語で「オンダー」というので、それに「人」を表す「チ」という接尾辞をつけて「オンダーチ」(ジュース人)と呼ばれたこともあります。

 で、瓶ジュースのラベルというのが簡単に糊付けされているだけで、これがまた外れることが結構あったんですね。そういうラベルを集めて保管しておいたのを、先日掘り出してきたというわけです。

 

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 これがそのラベル。先程も書きましたが、使い込まれた寸胴な瓶にこれがついているだけ、本当にそれだけです。製造年月日や賞味期限は本来明記すべきなんでしょうが、ないものは仕方ありません。右側一番下のブドウジュースには月日が記されていて、昔の日本の瓶ビールのように製造月日のところにハサミを入れるようになっているはずなのですが、どこも切れてないのでただのデザインになってます。

 その隣のレモンジュースは「7日間保存」と書いていますが、いつから7日間か分からないのがポイントです。

 それはさておき、ラベルの数でお分かりのようにジュースの種類はいろいろあります。中でもよく見かけたのは、左側2つ目のオレンジジュース、左側3つ目のサクランボジュース、左側一番下と右側下から2番目のレモンジュースです。

 ちなみに、どれも果汁が入っていた気はしません。

 

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 ジュースラベルの続き。左側一番上はハドというモンゴルで獲れるベリー系の果物をイメージしたつもりのジュース。その下は見ての通りパイナップルジュースで、確かに色はパイナップルでした。それにしても、熱帯の国々とのつながりがほとんどなかった社会主義時代、本物のパイナップルを見たことがあるモンゴル人はどれくらいいたんでしょうね。

 一方、右側の一番上はチョコレートジュース。他のジュースと同じく炭酸入りです。チョコレートで炭酸というと「うげっ」となる方もいることでしょうが、確かチョコレートの味がほとんどせず、意外と飲めた記憶があります。じゃぁ何の味がしたのかと言われると思い出せませんが、覚えていても適切な表現が思い浮かぶ自信はありません。

 その下は、順にレモン・さくらんぼ・スプライトとあります。スプライトと書いているのだから仕方ありません。砂糖と炭酸の入ったドリンクという点では確かに某社のスプライトとは共通しています。

 まぁでも、この程度のスプライトなら可愛いものです。

 

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 こんなのもありましたが、某社から許諾を取っている可能性は(お察しください)

 こういうノリがさらなる事件を引き起こすことになるのですが、それは後ほど。

 

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 さて、2000年前後というのは、モンゴルでペットボトルの飲料が登場し始めた頃でした。当時台頭してきたのがボヤージというブランドで、1.5リットルや0.6リットル、比較的大きめのジュースやミネラルウォーターを売り出していました。これが商品のラベルですが、「ペプシ」に加えてまたも某社っぽいコーラのロゴ。今振り返るとすっ飛んだ話ですが、あの頃はこういうのが何の不思議もなかったんですね。

 

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 とはいえ、ボヤージは他の商品も売っていました。上がオレンジ、下がミネラルウォーターです。

 

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 こちらもペットボトルのジュースです。これはボヤージと並ぶブランド「ジャガル」のレモンジュースで、当時はテレビCMをよく見かけました。♪Намайг жагар ундаа гэдэг ~ нэрийг минь тогтож аваарай ~ (私はジャガル・ジュースです、私の名前を覚えて買ってください)というCMソングのサビは今でも歌えます。

 

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 こちらはビタフィットという企業のペットボトルジュースのラベル。ビタフィットはもともと500ミリリットルのフルーツジュースを製造、販売していたところです。このジュースは300トゥグルグ(日本円で30円弱)と値が張るので、たまに飲むとちょっとしたぜいたく感が味わえたのでした。商品は上からリンゴ・コーラ・レモンですが、コーラの表記を特に何にも似せていないのが逆に意外です。

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 同じくビタフィットのオレンジ・いちごジュースとミネラルウォーターです。ミネラルウォーターのデザインだけ細かいですね。

 

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 今ではウランバートルでミネラルウォーターは当たり前に見かけますし、種類も下手をすると日本より豊富かも知れませんが、水を売る、また買って飲むという行動が始まったのもおそらくこの時期です。それまでにもミネラルウォーターがないではなかったのですが、すべて輸入ものでしたし、供給量も少なければ値段も張るので、買うのは外国人ぐらい。それが国内生産が可能になって、徐々にモンゴル人の間でも広まっていったのです。この辺、詳しく調べている人がいるといいのですが。

 ここで挙げたのが、そのはしりとなる商品。特に上の「ハタン・トール」(皇后トール、ウランバートル市内を流れるトール(トーラ)川の雅称)ブランドは今でも残っています。

 

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 そしてこちらがモンゴル初のブリックパックジュース。モンゴルにとっては画期的なものだったので、私も記念に保管することにしたのです。

 話をペットボトルのジュースに戻します。モンゴルには旧国営工場の流れを汲むアルヒ・ピーボ・オンダーという大手の飲料メーカーがあります。社名は「ウォッカ・ビール・ジュース」というそのものズバリの意味で、そのまま読むと長いのでたいていは頭文字を取った「アポー」という略称が使われています。

 で、そのアポー社もペットボトルジュース登場の流れに遅れまいと、3種類の新商品を世に送り出したのですが……

 

 

 

 

 

 

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 これあかんやつや。

 

 アウトってレベルじゃないですね。一発で没収試合ぐらいのレベルです。

 大手企業がここまでやらかしたというのはすぐに某社の知れるところとなり、抗議が来た末にこのラベルは廃止、残ったものは処分となったそうです。当時そう報じられたのを読んだ記憶があります。なので、今私が持っている以外にこのラベルが残っているかどうかはかなり疑問だったりします。

 なお、商品はラベルを変えて再度発売されまして、そのラベルが下のものです。

 

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 上と真ん中は商品名まで変わってますね。余程クレームをつけられたのでしょう。

 さて、2000年半ばからモンゴルは急速な経済成長を遂げたわけですが、その中でペットボトルのジュース、ミネラルウォーターが普及し、今では瓶ジュースは見掛けなくなってしまいました。

 安物の瓶ジュースなんて飲まなくて良くなるほど、モンゴルの人々が豊かになったのは慶すべきことです。ただ、過去のものとなってしまった、どうしようもないんだけれど愛すべき「オンダー」たちを懐かしむ気持ちは、心のどこかにあります。